第120話 ギリギリの脱出
「ヤバいぞ! 島が沈み始めてる!」
「嘘だろ?」
「マジだって!」
ユウタスから事実を知ったアレサはすぐに簡易ゲートを開いて船上のゲートとのシンクロを始める。ゲート稼働に必要な条件、時空因子が共鳴し合うのにそんなに時間はかからなかった。
「よし、繋がった! みんな急げ!」
「はい!」
まずはアレサの隣りにいたアコが素早くゲートに乗って転移。ユウタスが急降下するのを見届けて、アレサもゲートに飛び込んだ。間髪入れずにユウタスもまた吸い込まれるようにゲートに飛び込む。
3人を取り込んだ島側の簡易ゲートはその後、自動的に消滅した。
全員無事に船に転移した時、3人が目にしたのはものすごい勢いで沈んでいく島の姿。眺め始めてから、ものの十数秒で大きな島は見事に海中に没してしまった。この光景を、まるで幻を見るように3人はそれぞれの目に焼き付ける。
完全に島が見えなくなって、アレサはポツリとつぶやいた。
「ギリギリ……だったな……」
「本当ですね」
「間に合ったのは奇跡だなこりゃ」
これで何もかもが終わったと、3人はその場に力なく座り込んだ。もう危険な事は何もないと言う実感が湧いてくると、3人は誰と言わずに笑い出す。
「あ、あはは」
「ははは……」
「うふふ……」
最初こそ控えめだったその笑い声はやがて大笑いに変わり、しばらくの間、その声が途切れる事はなかった。
空がすっかり星空に変わった頃、落ち着いた3人は夕食を取りに船内へ。船のスタッフには島に残されていた2人を助けたと言う体でアレサがユウタス達を紹介。こうして2人は暖かく迎え入れられた。
「久しぶりのまともな食事、美味い!」
「本当ですね。涙が出ちゃいます」
「2人共、島では何食べてたんだよ……」
泣きながら料理をモリモリと口に運ぶ2人を見たアレサは呆れながら頬杖を付く。そこでユウタスは苦み走った表情浮かべた。
「そりゃもう、食べられるものを食べてたよ。果実とか、貝とか……虫とか……」
「うげ……それは辛い体験だったな」
「全然お腹も膨れなくて、きっと体重も減ってるな」
「お、おかわりもあるぞ……」
無人島組の悲惨さを感じ取ったアレサは深く同情して、スタッフに追加の料理を頼む。運ばれてきた料理も2人はぺろりと平らげた。満足するだけの分を胃袋に収め、ユウタス達はようやく落ち着いた表情を見せる。
そんな2人を眺めていたアレサの直感が何かを訴えた。
「そう言えばさ、2人はしばらく2人きりの時間を過ごしたんだよな」
「ん? そうだけど」
「他に頼る人もいないから必死に協力しあって……」
「アレサ? 一体何を……?」
彼女の言葉の意図が分からず、ユウタスは困惑する。その鈍感っぷりに少し苛ついたアレサは心を落ち着かせようと髪を掻き上げる。
「だから! 2人はいい感じになったんじゃないかなって……」
「「は? ないないない!」」
彼女からの追求にユウタスとアコは声を揃えて反論する。その声の揃いっぷりに何かを察したアレサは、もうそれ以上この話題を広げなかった。そうして、おもむろに両手を伸ばし、2人と固く手を握り合う。
「これからも俺達は一緒だ!」
「ああ!」
「こちらこそよろしくです!」
こうして3人は改めて結束を確かめ合い、その後、無事に船は地元の港に戻った。アレサはユウタスの書いたレポート依頼主に渡し、無事に依頼はクリア。
その後、レポートの内容から無人島での壮絶な出来事を本にしないかと言う話も舞い込むものの、トラウマが蘇るからと無人島組の2人はこの話を固辞。こうして、一連の出来事の真相は3人の記憶の中にのみ残る事となったのだった。
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