第119話 呆気ない幕切れ

 現場が一気にお通夜状態の暗い雰囲気になる中、まだあきらめきれないアコは他の可能性を考え続けていた。


「まだ何か……何か出来る事が……」

「アコ、もういいいじゃないか。やれる事はやったよ。手は尽くしたよ。アレサの話に乗って脱出しよう。それしか……」

「ちょま、何か変だぞ?」


 ユウタスがアコを説得する中、島の異変に気付いたアレサはそのは話を遮った。彼女は困惑する2人に島の上空の変化を指摘する。


「何か急に厚い雲が島の周りに発生してないか?」

「確かに……さっきまで晴天だったはず……」

「まさか、遺跡が中途半端に稼働した影響?」


 そう、いつの間にか島を厚い雲が覆っていたのだ。この理由について、アコが遺跡の稼働の影響の可能性を指摘する。それが真実なのか別の要因なのかを検証する間もなく、強い風が島に吹き荒れ始める。

 風はやがて雨を呼び、雨は雷を発生させた。雲が覆い始めてわずかな時間の間に嵐が発生したのだ。森の木々が抜けるほどの突風に、次々に地上に落ちる落雷。激しい雨の中には雹も混入していた。

 この自然の猛威を前に3人は何も出来ず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つばかり。


 島を蹂躙した嵐は翌日の昼過ぎにようやくその仕事を終え、嘘のように消え去っていった。風雨の音がやんだのを確認して、3人は安全確認のために遺跡から外に出る。

 そんな3人に前に現れたのは、あの自然の猛威に耐えきった悪魔と神。その2人が揃って立っていた。この予想外に展開に、ユウタスは自分の目を疑う。


「おいおい、悪夢なら覚めてくれよ……」

「えっと……お出迎え? って訳でもないか」

「あわわわ……」


 3人3様の反応の中、お互いに争っていたはずの神と悪魔は戦いを邪魔されて怒っている風でもなく、どこかスッキリとした面持ちで3人を静かに見つめていた。

 そうして、激しい戦闘をしていたにも関わらず、衣類すらほぼ無傷な神がその慈悲深そうで考えの読めない眼差しを向けてくる。


「お前達、何かをしていたね」

「え、えっと……」

「私達は別に怒ってはいないさ。ただ、その悪足掻きもまた美しいと思ったまでだ」


 悪魔もまた、飽くまでも紳士的に対応していた。とは言え、蛇ににらまれた蛙状態なのには違いない。2つの圧倒的存在を前に3人共まともに返事を返せないでいた。

 ここで対応を間違ったらどうなるか予想もつかない事もあって、人間側が言葉を発せられない中、神も悪魔も同じように何も語らない。まるで冒険者達の言葉を辛抱強く待つかのように――。

 この奇妙な沈黙がどれほど続いただろう。嵐の去った島に、いつの間にか虹がかかっていた。それに気付いたアレサは思わず口走る。


「あ、虹……」

「ああ、虹だな……」

「美しい虹だ、それに……」


 神と悪魔は同時のその自然現象を確認し、悪魔は更にその上空の自然の奇跡を目撃する。そこにあったのは、空に横たわる七色の光の帯、環水平アーク。虹とは違うその七色の景色を目にしたアレサ達は、初めてその自然現象を目にしたのか言葉を失っていた。

 同じ景色を見た神は何かを感じ取ったのか、そのまま隣の悪魔の顔を見る。


「もう時間切れと言う事か」

「みたいだな。ここまで組成が変わってしまっていては……」

「せめて、こうなる前に雌雄を決したかったが……仕方ない」


 神も悪魔も何かを悟ったようで、天の奇跡を目にしてからはもう争う事はなかった。そうして、環水平アークが消えると供にその体を空気に溶かしていく。実際にどう言う原理でそれが行われているのかは分からないものの、とにかく厄介な存在はこの世界から消えていった。

 このあまりに呆気ない幕切れに、その現象を目の当たりにしていた3人はただ呆然と立ち尽くすばかり。


「え……っと?」

「問題は……解決?」

「です……ね?」


 3人3様の反応を見せる中、事態はそこで円満解決――とはならなかった。何故なら、緊張感が解けて腑抜けになった3人に、今度は島からの手荒い歓迎が待っていたからだ。


「うわっ!」

「じ、地震?」

「キャアア!」


 嵐が過ぎ、災厄が去った後に待っていたのは、またしても島全体を覆う地震。突然発生したこの自然災害はその揺れ幅を限りなく増大させていく。すぐに3人はまともに立つ事も出来なくなってしまった。

 こう言う時に役に立つのは大地の縛りを受けない天空人のユウタスだ。彼はすぐに背中の羽を広げる。


「ちょっと様子を見てみる!」

「頼む!」

「お願いします!」


 飛べない女子2人の思いを受け止め、ユウタスは島の状況を上空から確認。そこで、恐ろしい事実が発覚する。遺跡の力で保たれていた島がその源を失い、浮遊力を失い始めていたのだ。砂浜は既に沈み始めている。

 その勢いから言って、島全体が完全に水没するのも時間の問題だった。

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