第118話 島に残された賢者の意思
こうしてアレサがこの島に来た用事も片付き、バケモノ異次元追放作戦が幕を上げる事となった。話が決まったところで、まだこの島初心者のアレサが腕を組む。
「で、どうするんだ?」
「やっぱり役割分担はした方がいいですよね。このまま長引かせると先に島が壊れてしまうかもですし、全員バラバラで……」
アコは作戦開始の許可を受けて、早速遺跡の地図の作成などの準備を始める。彼女の説明を黙って聞いていたアレサは、最後の言葉に引っかかった。
「ちょい待ち! アコ、お前1人だとヤバいだろ。俺かユウタスどっちかがついてないと……」
「ふふ、私の事を誤解してますね。私は初めて行く場所で迷いやすいだけ。何度も通ったら流石に問題ないですよっ。この島の遺跡も既に私1人で何度も調べてますから!」
アコは自分の迷い子スキルの説明をしながらドヤ顔を披露する。確かにその話の通り、アコが迷うのはいつも彼女が初めて入る場所だった。ただ、それでも迷わないアコをイメージ出来なかったアレサは、思わず素直な感想を口に出してしまう。
「ま、マジか……」
「……」
同意を求めようとユウタスの方に顔を向けると、彼は無言でサムズアップ。どうやらこの話は本当らしい。そんなこんなで遺跡マニアな彼女が書いていた地図は問題なく3人分完成し、それを元に役割分担を話し合いながら決めていった。
この話し合いで決まった分担に分かれ、3人は早速島のあちこちに分散している遺跡の仕組みを起動させる事に。遺跡の数は全部で6つ。なので、1人当たりふたつの遺跡を担当する事になる。
作戦実行中も神と悪魔の戦いは続いており、その戦闘のとばっちりを受けないように行動する事が求められた。遺跡について一番不慣れなアレサが一番簡単なエリアを担当し、ユウタスとアコはそれぞれ既に傷だらけだったり、神と悪魔の戦いで破壊されたりして稼働の難しい遺跡のあるエリアを担当した。
アレサは手にした地図をを頼りに、アコ命名の鳳凰遺跡の中枢部に辿り着く。そこには制御用の特殊な石版が鎮座していた。彼女は、そこで渡された資料通りの操作をする。
「えっと、ここでこの石版に今の時空軸の計算式の値をはめ込んで……出来た!」
遺跡稼働の仕組みもアコが既に解明していたため、それをマニュアル化したものを忠実に再現するだけで作業は終了する。静かに動き始めた石版を見て、アレサはここまでの準備を2人だけでこなした事に感心した。
「俺が来なかったら、たった2人で全てを成し遂げようとしていたのかよ……すごいな」
遺跡再稼働作戦は完璧なマニュアルのおかげでスムーズに進み、3人は全ての作業を終えて、安全地帯の遺跡に戻ってくる。一番簡単なエリアを任されたアレサが最初に戻り、その後にユウタス、アコと続いた。
一番待っていたアレサは、揃ったところでみんなに声をかける。
「みんな、無事だったか?」
「大丈夫、問題ない」
「私も、うまくいきました」
遺跡稼働を確認をして、作戦は次の段階に移行。個々の遺跡の波長を同期させて異次元空間への扉を開き、その亜空間ゲートの領域を広げる。このシステム自体は太古の賢者が構築しているため、それを実行するのは正しい手順を踏むだけでいい。
そのやり方を碑文から解読したアコが、最終調整を自ら買って出ていた。
「これはこの島を作った賢者の意志であり、遺言なんです。彼はこの未来をも予見していました。だからこそ、絶対に成功させます!」
今の3人がいる絶対安全遺跡、その正体は全ての遺跡の制御のために作られた中央制御室的なもの。コントロールクリスタルに両手を乗せて、アコは6つの遺跡の次元波動調整を始める。
ユウタスとアレサはこの段階においてはただの傍観者だ。2人共、アコの作業が成功する事を祈りながら推移を見守る。やがて各遺跡から光の線が伸び、6つの遺跡全てがその光の線によって繋がり、光の輪が形成された。この光景を見てユウタスは興奮する。
「やったか!」
この言ってはいけないフラグを口走った直後、コントロールクリスタルにエネルギーの過剰流出が発生。アコは反射的に手を離した。
「いたっ!」
「アコッ!」
アレサはすぐに彼女のもとに駆け寄る。どうやら軽い火傷を負ったらしい。アレサは治療薬をその傷に素早く塗り込む。
「ありがとう」
「傷が大した事なくて良かったけど、何がどうなったんだ?」
「多分、どこかの遺跡の破損がひどくて不具合が起きたんじゃないかと……」
「あれだけ派手に戦ってるからなぁ……」
ユウタスは遺跡に設置された立体映像装置が映す規格外な2人の戦いの映像を見て、深くため息を吐き出した。
どんな理由があったにせよ、作戦は失敗。この時点でもう3人には成す術がなくなってしまう。
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