第117話 明かされる無人島の正体

 一刻も早く島を脱出したい彼女に対し、ユウタスは余裕たっぷりにニヤリと笑う。そのあまりに自信たっぷりな態度に、アレサは少し落ち着いた。ここまで言うのだから、何か根拠があるに違いないと。


「勝てるって言うなら教えてくれよ。言っとくけど、俺を当てにするなよ? あんなバケモノ、手も足も出やしない」

「作戦はアコが立ててくれたよ」

「えっ?」

「はい。この島なら、私達の手に負えないあの2体の規格外の存在を何とか出来るかも知れないんです!」


 アコは早速この島を調べて作った地図を広げる。そこには、島のあちこちに顔を出した古代の遺跡の場所が記されていた。アレサが地図を凝視する中、アコは各地の遺跡を線で囲んでいく。

 そうする事で浮かび上がった図形は、島全体を包み込む程の巨大な魔法陣だった。


「このように、各地の遺跡を発動させると、特別な魔法陣が生み出されます。すると、この時に発生した力によって、あの神と悪魔を異次元に飛ばせるはずなんです」

「この島、無人島じゃないのか? どうしてそんな遺跡が?」


 アレサは依頼を受けた時に聞いた島の情報と違っていたために、プチパニックになる。頭を抱える彼女を見たアコは、今までに何があったかを説明し始めた。

 悪魔によってこの島に飛ばされてきた事、島にいきなり遺跡が出現した事、その遺跡から謎の神様が復活した事、いきなり神と悪魔が戦い始めた事、その戦いの最中、2人で島を調べた事、遺跡の古代文字の碑文を読む事で、島の正体を知った事――。


「この島は、かつて魔法を極めた賢者が作った魔法島なんです。大昔に悪魔が暴れた時に、神と協力して悪魔は封印されたと刻まれてありました」

「は? 悪魔はあの森の遺跡で復活したんだろ?」

「そうです。この島に封じられていたのは神の方です。悪魔の封印の後に世界が平和になるかと思ったら、今度は神が独裁を始め、人間を奴隷扱いし始めました。そこで賢者が知恵を絞ってこの島を作り、神をおびき寄せ、像の中に封印したのだとか。島に人がいたらいつか神の封印を解く者が現れるかも知れないと、島を無人島にしたんです」


 学者肌のアコは淀みなく島の歴史を説明する。その自信に満ち溢れた語り口にアレサは感心した。


「つまり、この島にはアレを封印する仕掛けがあると言う事なんだな?」

「正確に言うとちょっと違います。賢者は封印は二度は通じないと分かっていました。だから2本目の矢を用意していたんです。この島の遺跡はそのために用意されたと言っても過言ではありません」

「封印とは別の仕掛けが?」

「そうです。それが遺跡の力を利用した異次元追放システム。別の世界に飛ばしてしまえば、たとえ神々と言えどもこちらの世界に二度と干渉は出来ません」


 持論を力説しきったアコはふんすと鼻息荒く胸を張る。その様子が少し可愛らしく、アレサは軽くクスッと笑った。

 とは言え、この説明をしている間も外では神と悪魔が戦い続けている。その内に、この場所にも流れ弾とか飛んでくるんじゃないかとアレサは心配になってきた。


「それより大丈夫か、ここ?」

「ここも賢者が作った遺跡のひとつだから、直撃を受けない限りは大丈夫」


 今度はユウタスが謎の自信を見せて胸を張る。島を調べ尽くした2人がそう言うのだからと、アレサも一応納得した。そうして、改めて彼女はこの安全な場所をじっくりと見渡す。

 確かにここは森の中の遺跡と似た雰囲気で、壁面の文様には類似性も感じられた。もしかしたら見えないバリア的なものも発生しているのかも知れない。


 今すぐ脱出するか、あの2体の化け物を異次元に飛ばすか。先に島に飛ばされた2人は脱出を望んではいない。アレサは自分の同意を待つ2人を信じ、この作戦に賭けてみる事にした。


「……仕方ない。多数決だよな。俺もその作戦に乗るよ」

「やったあ!」


 自分の話を受け入れてくれた事で嬉しくなったアコは、そのままアレサに思いっきり抱きついた。抱きつかれた彼女もしばらくそのままにさせている。そうして、2人がイチャイチャしている間に、ユウタスはサラサラとレポート用紙に何かを書き始めた。

 熱い抱擁が終わった頃を見計らって、アレサに書き上がったものを手渡す。


「これ、この島の概要。今までに調べた事を書いておいた。これを提出すれば依頼はこなした事になるだろ?」

「おお、これは助かる。ありがとな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る