第115話 その頃、アレサは

 その少し前、調査団を無事に依頼者のもとに送り届けたアレサは無事に報酬を得て、一旦ギルドに戻る。仲間の2人が戻って来ているかも知れないと考えたからだ。

 しかし、ギルドに該当人物の姿が見当たらなかった事から、彼女は顎に手を乗せる。


「おかしい……。順調にいけばユウタスはアコを連れて戻ってきていてもおかしくはないはず。まさか何かあった?」


 想定外の結果を前にして、アレサの中で悪い予感がよぎる。この直感を確かめるために、彼女はもう一度ジャングルの遺跡に向かった。ユウタスがまだアコを連れ帰れていないその理由を探るために。

 二度目の密林は、体がルートを覚えていたために初回よりスムーズに足が動く。そうして、難なく遺跡に辿り着く事が出来た。遺跡入口の大きな石柱を見上げて、アレサは額の汗を拭う。


「さてと、行くか!」


 再度遺跡に入った彼女は中の違和感に気付く。まず、罠が発動しないし、最初に入った時に薄っすらと感じ取れていた不穏な気配がすっかりなくなっていたのだ。

 ただし、目的はまだ戻ってこない仲間の探索。アレサは頭を振ると仲間探しに集中する。


 ある程度サクサクと奥まで進んだところで、上空から巨大な鷲モンスターが襲いかかってきた。その強力な爪が至近距離まで迫る中、モンスターの気配を敏感に感じ取った彼女は、剣を引き抜き鷲の足に向かって剣技を放つ。


「たああーッ! 真円斬り!」

「ギャウウウー!」


 この攻撃を想定していなかった鷲モンスターは、足に深い傷を負って叫び声を上げる。そうして捕獲をあきらめ、またどこかへと飛び去っていった。

 反撃が来なかったので、アレサは剣を鞘に戻す。


「ふう、びっくりしたあ」


 見事にモンスターを追い払った彼女はその後も捜索を続けたものの、以前は通れた道が崩れていたりして物理的に進む事が出来ず、途中で断念せざるを得なかった。

 何の成果も得られないまま、もしかしたらどこかで入れ違いになったのかもと一縷の望みを賭けてアレサはギルドに戻る。いつもは軽く開けられる扉が、その時に限ってはやたらと重かった。


 戻ったギルドで見知った顔を探すものの、当然そこに仲間の姿は見当たらない。がっくりと項垂れ、アレサは開いている席に座り込む。精神的なショックで最初は何の音も聞こえなかったものの、落ち着いてくると自然に周りの声が判別出来るようになってきた。


 この時、ギルドで話題になっていたのは神々の戦いと言うスケールの大きなもの。どうやら、どこかの無人島で人外の巨大な力を持つ2体の何かが争いを始めたと言う話だった。その破壊の規模の大きさから、神々が争いを始めたのだと騒ぎになっていたのだ。

 アレサは自分には関係ないと、その話題を右から左に聞き流す。


 やがて、ギルドではその無人島で何が起きているのか調べて欲しいと言う依頼が張り出される。ただ、依頼の前に大袈裟な噂が流れてしまったために、誰もその依頼に手を出す者はいなかった。


 ギルドでずっと待っていても仲間は戻ってこないと悟った彼女は黙って席を立つと、そのまま街で評判の占い師のもとに向かう。黙って座ればピタリと当たると言うその占い師に、アレサは全ての望みを賭けた。


「あんたは今人を探してるね」

「そうだ! 俺の仲間が今いなくなっていて……どこにいるか分かるか!」


 アレサは前のめりになって占い師の顔を覗き込む。その勢いに一瞬占い師は引いたものの、すぐに独自の占いテクニックを披露して彼女の望みに応えた。水晶玉を覗き、意味ありげなカードを広げ、そこから天啓を読み取る。

 しばらくしてメッセージを得た占い師は、静かにその結果を伝えた。


「大丈夫、あんたの探し人は生きてるよ。神々の戦いの島にいると出た。これが象徴なのか、実際の現象なのかはちょっと分からないけどねぇ」


 その答えを聞いたアレサは、すぐにさっきの依頼の事を思い出す。そうして急いでギルドに舞い戻った。真っ直ぐ掲示板に向かうと、まだ手つかずだった無人島調査の依頼を勢い良く剥ぎ取り、鼻息荒く受付にそれを叩きつける。


「この依頼、俺が受ける! いいよな!」

「は、はい……。では手続きをしますね」

「早くやってくれ! 今すぐにでも行きたいんだ」


 彼女は受付を急かし、依頼が認められたと同時に依頼主の元へと急ぐ。何がどうなって無人島に2人がいるのかは分からない。ただ、占い師の言葉とアレサの直感がシンクロして、占いの結果が正しいものとアレサは根拠もなく確信したのだ。

 依頼主のもとに着くと、詳細な情報を得て無人島行きの手続きを済ませる。必要最低限の準備だけを済ませて、彼女は無人島の調査へと向かった。

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