第113話 神様は復活し、悪魔は笑う
ユウタスは、アコとはぐれないように空いている左手を握る。普通に後をついていっているだけでは、何かしらのトラブルではぐれる場合もあるからだ。
アコはアコで、遺跡の壁面や素材などを夢中になって調べている。何らかの象徴的な壁画を見つける度に、長時間そこを動かなかった。
「何か分かった?」
「うん。遺跡のパターンから言って、あのジャングルのものとの類似性が感じられるよ。もしかしたら同じ年代、同じ文化圏のものなのかも……」
「ジャングルの方もそうだけど、この遺跡を作った人々はどこに行ったんだろう」
「そればっかりは遺跡だけを調べても分からないかもね」
その後もアコの興味のままに遺跡の探索は続く。幸いな事に、入り口が閉まった以外の罠が発動する事もなく、2人はどんどん遺跡の奥へ奥へと足を踏み入れていった。
遺跡内は完全に室内なのに、壁面が自発的に発光する事で視界を保っている。失われた古代文明が今も稼働しているのだろう。何百年、いや、何千年ぶりかの客人をもてなしているかのようにも見える。ずっと島に地下に沈んでいたからか、モンスターも入り込んではいないようで、静かな遺跡内は2人の足音だけを響かせていた。
アコの興味だけで進んでいた探索は、やがて2人を広くて天井の高い部屋に導く。その部屋の一番奥には意味ありげな像が鎮座していた。見たところ、古代の宗教の神様のようだ。
この光景を目にしたユウタスは、直感的に嫌な予感を感じ取る。
「アコ、なんかここはヤバい! 引き返そう!」
「……」
「アコ?」
どうやらその忠告は一足遅かったらしい。返事がなかった事ですぐにアコの顔を確認すると、その表情からは生気が消えていた。驚いて力を緩めた瞬間にアコはユウタスの手を振りほどき、部屋中央の神像に向かって駆けていく。一瞬呆気にとられたユウタスだったものの、すぐに彼女を追いかけた。
ある程度は近付けたものの、神像が何らかの力を発生させているらしく一定の距離以上には近付けない。拒まれたユウタスとは対象的に、アコは何の障害もなく神像に近付き、その手を伸ばした。
「アコー! 止めろーッ!」
ユウタスの必死の忠告も虚しく、アコは像に手を触れる。その瞬間、神像に光の文様が浮かび上がり、勢いよく砕け散った。その影響を受けたアコは吹っ飛び、ユウタスの胸の中にキレイに収まる。この頃には、彼女も正気に戻っていた。
「あれ? どうして……キャアッ!」
気がついたら抱きかかえられていたため、アコはすぐに飛び退く。ユウタスは、すぐに目の前の異変に注目するように指を指した。
「えっ? 何? え、何あれ!」
「多分、俺達はアレを復活させるために誘導されていたんだ」
神像が吹き飛んだその場所に光が凝縮している。それはやがて形を取り、人型の何かに変わった。まばゆい光がその何かに完全に吸収されると、そこに存在していたのは神像の姿のままの生身の存在。言ってみれば古代の神そのものだ。
太古の時間を飛び越えて、当時の信仰の対象が蘇っていた。
「ど、どう言う事なの?」
「俺も分からないよ!」
「ふふ、よくやってくれました」
いるはずのない3人目の声にユウタスが振り向くと、そこには2人をこの島に飛ばした張本人がいつの間にか立っていた。この事実に、彼はここまでの経緯を何となく直感で把握する。
「悪魔! 全てはお前の企みか! そうなんだろ!」
「いえいえ、まさかここまでうまく行くとは私も思いませんでしたよ?」
「私達を利用して! あの神様を復活させてどうするつもりなの!」
「少し……黙りましょうか……」
悪魔はユウタス達の抗議に対して、人差し指を口元に当てる。その沈黙のポーズを見ただけで、2人はもう何も喋れなくなっていた。謎の拘束力が発生していたのだ。
静まり返った部屋で、復活した神もまた困惑していた。
「ここは……どこだ?」
「さあ、神よ。続きを始めようではありませんか」
悪魔はそう言うと、神に向かって先制攻撃。邪悪なエネルギーで形成した槍を投げつける。その悪意の槍を反射的に弾き飛ばした神は、自分に敵意を向ける存在を認識し、自らの記憶を蘇らせていた。
「……そうか、お前か」
「ええ、そうですよ! 3000年前につかなかった決着を今つけましょう。今度は邪魔者もいない!」
「望む……ところだ」
こうして、突然神と悪魔の戦いが始まった。2人の超常的存在の実力はほぼ互角で、しかもお互いに強大な力を惜しみなくぶつけ合う。当然、遺跡がその力に耐えられる訳もなく、次々に破壊されて瓦礫が容赦なく降り注いだ。
戦う2人にそんな障害はノーダメージなものの、部外者の人間2人にとっては一歩間違えれば死への一本道。とばっちりを受けないようにと、急いで遺跡からの脱出を試みていた。
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