第110話 遺跡の最奥部へ

「き、来てるー!」

「嘘だろ、早すぎる!」


 なんと、逃げ始めて大して時間が経っていないと言うのに、もう鷲モンスターが追いかけてきていたのだ。通常の鷲でも獲物を狙う速さは鳥類の中でも随一。それの数倍の大きさなのだから、その速さは推して知るべし。

 2人とモンスターの距離はどんどん縮まっていく。この状況によりパニックになっていたのは、アコの方だった。彼女は迫りくる恐怖に対して魔法を発動させる。しかし、冷静さを失ったそれは当然ながら適切な出力に調整されてはいなかった。


「火炎精霊~っ! 炎の矢~! 焼き尽くすボール! 火の壁~! それと、えーと! うおおお~!」


 連発される杖なしの火炎魔法のオンパレード。当然ながら全く狙いは定まっていない。生み出された魔法は遺跡の壁や床に当たり爆発していく。たまにモンスターに向かうものもあったものの、それは器用にかわされていった。巨大な鷲の足が獲物を捉えようと急降下した時、奇跡は起こる。

 無駄撃ちした魔法のダメージに耐えきれなくなった通路の壁が次々に崩れたのだ。鷲は落ちてくる瓦礫に押し潰され、その巨体故に身動きが取れなくなってしまう。この一部始終を見ていたアコは、喜びの声を上げた。


「やった! 倒せたよ!」

「えっ?」


 逃げるのに夢中で前しか向いていなかったユウタスは、その声に驚いて振り返る。すぐに彼の目に飛び込んできたのは通路を塞いだ瓦礫の山だった。通路へのダメージは通路全体に響いていたものの、この時の2人にはアコの成果しか見えていない。

 直近の恐怖が消え去った事を確認して、2人は両手を握り合って喜び合う。


「アコ、ナイス!」

「うふふ、私だってやる時はやるんだよ!」


 無意味にブンブンと手を上下させて気持ちを共感させた後、ユウタスは手を離して指を顎に乗せる。


「さて、ここからは遺跡からの脱出を考えないと。何かいい案はない?」

「そうだね。迷いまくる私が言うのも……えっ?」


 2人が次の行動に対して頭を悩ませていたその時だった。立っている床に亀裂が入ったかと思うと、呆気なく砕け散ってしまう。この突然の展開にユウタスは背中の羽を出す暇もなかった。重力に任せて落ちるままのアコを何とか捕まえてユウタスが羽を出せたのは、落下先の床に激突するほんの直前。

 何とかギリギリで危機の回避に成功し、彼は頬の汗を拭う。


「まさか床が抜けるなんて……」


 ユウタスは今まさに落ちてきた天井を見上げる。この遺跡はまだ魔法の修復機能が生きていたようで、天井の穴がどんどん修復されていった。その状況から、飛んでこの場所から離脱するのは無理だと判断したユウタスは、その場にぺたりと座り込む。


「ああもう……何なんだこの遺跡」


 ユウタスが軽い絶望に襲われていたその頃、遺跡マニアのアコはと言うと――。


「ねぇユウタス、この部屋すごいよ! 失われた文明の遺産、ここまで保存状態がいいだなんて!」

「なんでこの状況でそこまで喜べるんだ……」


 ……彼が呆れるほどにテンションを上げて小躍りをしていた。


 しばらくの間は落下のショックもあってその場に留まっていたものの、それではどうにもならないと言う事で、ユウタスはゆっくりと歩き始める。遺跡を前にテンションを上げていたアコの手を引っ張りながら。


「アコ、行こう。まずはここから出ないと」

「え~、こんな貴重なのに……」


 不満タラタラの彼女は、不服そうに口をとがらせながらユウタスに引っ張られていく。2人が落ちた地下は一本道になっており、そのまま導かれるようにとある部屋に辿り着いた。

 部屋に入ったユウタスはすぐに上に登る階段がないかと見渡すものの、そこは行き止まりで、入っただけ無駄な部屋だと判明する。


「あ、この部屋じゃない……」

「ちょ待って、これは世紀の発見ですよ! この部屋を出るだなんてとんでもない!」


 ユウタスはすぐに出ようとするものの、この場所の遺跡的価値に夢中になっていたアコがそれを止める。脱出を第一に考えていたユウタスはまた彼女を捕まえて出入り口まで進もうとするものの、後数歩と言うところでその扉が完全に閉まってしまった。突然謎の金属のシャッターがドスンと落ちてきたのだ。どうやらそう言う罠だったらしい。


「……マジか」


 道を防がれては仕方がないと、ユウタスはここからの脱出方法を探り始める。部屋全体を見回したり、あちこち歩き回ったり……。少し見ただけでは脱出する方法は分からない。

 この状況にアコも動いていた。床や壁画を調べ、どこかにスイッチ的なものがないか探し始める。罠にかかりやすい体質の彼女なら、もしかしたら現状を打破してくれるのではないかと、ユウタスも少し期待をしていた。

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