第109話 アコとの再会

「ユウタス? あなたも捕まったの?」

「アコ? 君も連れ去られてたのか」

「うえーん! 淋しかったぁーっ!」


 なんと、同じ巣の中に探していたアコがいたのだ。この偶然の再会にユウタスが硬直していると、いきなりアコの方から抱きついてきた。その勢いで2人は倒れ込む。


「ちょっと興味深い痕跡を見つけて調べていたらあの鷲に捕まって……それで、ずっと1人で……」

「分かった、分かったから離れてっ」

「あ、ごめん」


 この時、アコがユウタスを押し倒す形になっていた。彼の言葉で正気に戻ったアコは、すぐに飛び退いて服のシワを直したり髪の毛を整えたり……。ユウタスもすぐに上半身を起こすと、そんな彼女の方に顔を向けながらどこにも傷を負っていないのを確認した。


「無事で良かった」

「うん、そうなんだ。私もね、何でだろうって思ったんだけど、多分あの鷲、私達を自分の子供にしょうとしてるんじゃないかって思うんだ。ほら、この巣、卵がないでしょ?」

「雛もいないし」

「そうそう!」


 話が合ったところで、アコのテンションはヒートアップする。最初こそ、ここに連れてこられた状況や鷲モンスターの生態の話から始まったものの、次第にこの遺跡の事、遺跡の歴史や遺跡が現役だった頃の世界情勢やらアコの得意分野の情報が早口で矢継早に語られていく。

 その勢いに圧倒されたユウタスは、たまに相槌を打つくらいしかリアクションが取れなかった。


「……でさ、私、ここでひとつの仮説を立てたんです。もしかしたらこの遺跡は……」

「その話、また後にしていい?」

「え?」

「まずはここから出よう!」


 ユウタスは目をキラキラと輝かせながら興奮しているアコの話を遮って、素早く彼女をお姫様抱っこする。そうして背中の羽を出現させ、思いっきりジャンプした。鷲モンスターの巣穴はかなり高い位置にあったものの、空を飛べる天空人にとってそれは何の障害にもならない。

 とは言え、ずっと飛び続けるのは流石に体力の消耗が著しいため、今後の展開を考えたユウタスは、ゆっくりと床に向かって降下する。


「降りたらすぐに走って逃げよう」

「あ……うん」


 お姫様抱っこをされたアコは前触れなしに抱かれた事でまだ実感が伴っていないらしく、心ここにあらずと言った表情のまま。彼女を気遣って丁寧に着地したユウタスはそっと優しく彼女を降ろした。


「あの、重く……なかった?」

「いや、大丈夫。行こう!」

「う、うん」


 ユウタスは、またはぐれないようにアコの手を握るとすぐに駆け出した。アコも彼の負担にならないようにと懸命に足を動かす。今はモンスターから逃げる事が一番の目的だったので、それ以外の感情をユウタスは持ってはいない。

 逆に、アコは今のこのシチュエーションについつい妄想を膨らませてしまうのだった。


「……ごめん」

「え?」

「あの……いつも迷惑をかけてばかりで」

「それはお互い様。俺達も知っていて対策を立ててなかったし」


 アコの話に付きあいながら、ユウタスは別の事を考えていた。巣のあった大きな部屋には、合計で8つの道から出入り出来るようになっている。この道の選択を間違えれば、またあの鷲モンスターに遭遇する事だろう。

 依頼を受けた時に遺跡の地図は貰ったものの、地図にこの部屋が記載ていたかどうか分からない。


 そもそも脱出最優先だったため、ユウタスはそのあたりの事を全く考えていなかった。勘で選ぼうとしたものの、失敗のリスクを考えたユウタスは立ち止まる。

 そうして、荷物の中から改めて地図を取り出した。


「これ、ちょっと見て」

「え? これ遺跡の?」

「どの道を選ばばいいか分かる?」

「えっと……」


 地図を手渡されたアコはそれをじっと眺める。それから地図をぐるりと動かして現在位置を確認すると、深刻そうな表情をしながら顎に指を乗せた。


「ダメ、この部屋は載ってない。多分ここまで調査隊は来ていないよ」

「マジか」

「あの鷲の行動パターンを読むしかないですね。ただ、この辺りを縄張りにしているなら、どこを選んでもただの時間稼ぎにしかならないかも」

「じゃあ……。やっぱ、勘でいくか」


 ユウタスはすぐに決断すると、またアコの手を取った。それからその場から一番近い通路に飛び込む。出口に向かうのではなく、モンスターから距離を置くのが目的だ。

 現在地が地図に載っていない以上、その道を進んだ先がどうなっているのかは分からない。それでも何もしないよりはマシだと、2人はその未知の道を駆け抜けていく――。


 走りながら、不穏な気配を感じ取ったアコが振り返った。

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