第108話 ユウタス、モンスターの餌にされる

「アコー……おおっと!」


 遺跡の深いエリアに足を踏み入れた途端、トラバサミが発動してユウタスの足を狙う。間一髪でそれを避けると、今度はどこからか弓が飛んできた。ギリギリでそれを避けて急いで遺跡の通路に入り込むと、今度は道を塞ぐようにモンスターが現れる。そのモンスターは魔獣系で鋭い牙を持ち、体に突起物がたくさんあるタイプだ。

 そいつは突然自分の縄張りに入ってきたこの見れない侵入者を警戒して、非常に殺気立っている。


「はは、落ち着こうぜ兄弟。俺は敵じゃ……」

「キシャァァァ!」


 ユウタスが両手を軽く上げて無抵抗の意思を表した途端、棘モンスターはいきなり走ってきてタックルを仕掛けてきた。交渉の余地なしと即決した彼は、すぐにこの攻撃をいなしつつ、拳に硬質の気を纏って弾き飛ばす。こうして、このモンスターも一撃で遺跡の壁に激突して意識を失わす事に成功。まだ遺跡の浅い場所だからか、現れるモンスターも比較的弱いようだった。

 ユウタスは手をパンパンと叩きながら、改めて人の入った痕跡を探す。


「俺らと違ってアコはそこまで強くない……早く見つけないと」


 その後も痕跡を辿りながら遺跡の奥へ奥へと彼は進んでいく。遺跡の罠もモンスターの襲撃も難なくこなしていく内に、ユウタスは不意に襲ってくる頭痛に頭を抱えた。


「何だこの頭痛……遺跡から気分を悪くする何かが出ているのか?」


 目に見える攻撃なら対処も可能なものの、流石に見えない攻撃に対してはユウタスは何も出来ない。依頼を受けた時に貰ったトラブル回避用のアイテムにも、このアクシデントに対応出来るものはなかった。

 つまり、想定外の事態になってしまったようだ。


 侵入者が強い内は警戒していた遺跡内モンスター達も、今がチャンスだとばかりに一斉に襲ってくる。四方八方から立体的に襲ってくるモンスター軍団に対して、ユウタスも懸命に反撃する。とは言え、普段の調子が出せない事もあって時間が経つにつれ攻撃を受け始め、次第にボロボロになっていった。


「ハァ……ハァ……参ったな……」


 謎の頭痛に襲われながらも、何とかモンスター達を撃退したユウタスは敵に襲われない場所を見つけ、体力の回復に専念する。そうして、座り込みながら調査隊の人が別れ際に告げたアドバイスを思い出していた。


「この遺跡に深入りしてはダメだ。ヤバくなったら逃げろ……か」


 ユウタス単独で遺跡を探索していたなら、その言葉も素直に聞けただろう。ただし、仲間の安否が分からない状況で、尻尾を巻いて逃げ出す選択を選べるほど彼は薄情ではない。腕を回して調子を確認したユウタスは、進む先にアコがいる事を信じて立ち上がる。


 と、その瞬間を狙っていたモンスターが突然上空から現れた。それは巨大な鷲のモンスター。人間を余裕で掴めるほどの大きさだ。モンスターは超高速で接近すると、そのままガッチリとユウタスを掴み、更にスピードを上げて飛んでいく。

 こうして、彼はモンスターに拉致されてしまった。


「くそっ、ここまで来て……」


 鷲の強い力で肩を掴まれ、爪が食い込んで血が滲んでいく。拳闘士はスピードが命なので、いつも薄着なのが今回は仇となった。しっかり鎧を着込んでいたら、簡単には掴まれなかったのかも知れない。

 ユウタスは運ばれながらモンスターの顔を見る。鷲らしい精悍な顔つきは生物としての美しさと気高さすら感じさせていた。


  モンスターは遺跡の通路内を器用に飛び回り、やがて目的の場所へと辿り着く。急に広くなったその場所には巨大な木が生えており、その一角にこれまた大きな巣があった。きっとそこがこの鷲モンスターの目的地なのだろう。

 ユウタスは、自分のこの先の運命を想像して軽く絶望する。


「俺、モンスターの雛の餌になっちゃうのか……」


 巣の上空まで飛んだところで、突然鷲モンスターの爪がユウタスを離す。彼はそのまま巣の中にダイブした。幸いな事に、巣の中に雛モンスターの姿は見えず、最悪の事態は回避されたようだ。

 ユウタスを放り出した鷲モンスターの方は、無事に巣に獲物が落ちた事を確認するとまたどこかに飛び去っていく。


 最悪の脅威が去っていったのを確認して、ユウタスはまずこの巣の中の状況を確認。一般的な鳥の巣を単純に大きくしただけのようなその巣は、頑丈さだけは桁違いに作られているみたいで、多少暴れたくらいでは壊れないような感じだった。

 巣の中に危険な気配がない事を確認して、彼は勝ち誇ったように拳を上げる。


「フフ、あの鷲、俺がただの人間だと思ってたな。背中の羽を出していなくて良かったぜ」


 すぐに背中の羽を出して空を飛んで逃げようとしたところで、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

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