第107話 依頼は達成、しかし――

 魔法の鍵を使った事により、高さが5メートルはあろうかと言う大扉はひとりでに開いていく。その奥の部屋にいたのは、依頼されていた遺跡調査隊だった。

 調査隊は女性のリーダーを含めて5人、全員がその部屋に揃っていた。恐らく調査をしていて扉がしまってしまい、閉じ込められたのだろう。扉を開いたアレサを見た女性リーダーはそのまま歩いてきて、手を差し出した。


「救助の人ですね! 助かりました」

「え、えっと、あの……はい、そうです!」


 アレサはリーダーの差し出した手を握ると愛想笑いを浮かべる。そのぎこちない笑顔は少し引きつっていた。取り敢えずは依頼を優先と言う事で、アレサは調査隊を引き連れて遺跡を出ようと歩き出す。調査隊のメンバーは全員疲れ切っており、森の凶悪な動物やモンスターが襲ってきたらしっかりと護衛をしなければならない。アレサは周りの気配に敏感になりながら遺跡の出口を目指した。

 と、そこにアコを探しあぐねていたユウタスが降りてきてアレサと合流を果たす。彼は、アレサが調査隊を引き連れて歩いているのを見て事情を察した。


「おお、お手柄じゃないか」

「ユウタス、アコは?」

「いや、それがまだ……」

「だろうね。それで話があるんだけど……」


 アレサはユウタスを連れて少し離れた場所に移動。そうして今後の行動についての話を始める。


「俺はあの調査隊を無事に依頼主のところまで送り届けるから。アコの事は任せた」

「えっ、俺1人で?」

「当然だろ? 依頼も仲間もどちらも大事。役割分担だよ」

「ま、仕方ないか」


 アレサの提案にユウタスも納得して、2人は別行動を取る事になった。調査隊を引き連れて遺跡を出ていくアレサを目で追いながら、ユウタスは植物に覆われた遺跡を見上げる。上空は真っ青な空に白い雲。

 彼はしばらくじっとしていたものの、思い出したように手をパンと叩いた。


「さて、探すか!」


 ユウタスがアコ探しを再開していた頃、アレサは調査隊を連れて無事に遺跡からの脱出に成功する。後は道なりに森を進めば抜ける事が出来るだろう。ここまで順調に事が運んだ事で、アレサの目はお金の形になってランランと輝いていた。


「私がしっかり護衛しますので、安心してついてきてくださいね」

「やあ、君は本当に頼もしいね。最後までよろしく頼むよ」


 リーダーに信頼されたアレサは最後までその責務を忠実に守り、襲ってくるモンスターやら野生動物、更には盗賊などから調査隊を守りきる。こうして、彼女は無事に依頼を果たす事が出来たのだった。


 アレサが見事に仕事をこなす中、ユウタスはユウタスで自分の与えられた役割を必死にこなしていた。彼は植物で覆われた遺跡を何とかかき分けながらアコが歩きそうな道を勘を頼りに選び取っていく。遺跡がまだほとんど手つかずなのもあって、やがて人の歩いた痕跡を発見する事が出来た。

 とは言え、まだこれが探している仲間のものかどうかまでは判別出来ない。そこで仕方なく呼びかけを始める。


「アコー! どこだー! 返事をしてくれーっ!」


 声を張り上げながら遺跡の奥へと足を踏み入れると、人の気配を察知した野良モンスターが現れる。どうやらこの荒れた遺跡をねぐらにしているようだ。

 ユウタスは拳闘士であり、体が武器だ。気配を察知すればすぐに対応出来る。なのでいきなりのモンスターの襲撃でも余裕を持って対応出来た。


「グウオオオ!」

「この遺跡の魔獣だな。今すぐ逃げれば見逃してやるぞ!」


 ユウタスは構えを取りながら、現れた大型肉食獣レベルのモンスターに気を放つ。この辺りに生息する野生動物なら怯んで逃げ出すレベルのものだ。

 しかし、相手も流石はモンスター。人間ごときの気迫ではたじろぎもしない。じわりと様子をうかがいながら距離を詰めてきたモンスターに対し、彼は攻撃の構えを取った。


「俺を食べる気なら……本気で来るんだな!」

「グウオオオ!」


 間髪を入れずに襲いかかってきたモンスターをユウタスは紙一重で避けると、そのまま一撃をモンスターの腹部に打ち込む。この一撃を受けてモンスターは吹っ飛び、ピクリとも動かなくなった。


「悪いけど、そこで眠っていてくれ」


 モンスターを倒した、正確には気絶をさせた後、ユウタスは探索を再開させる。ただし、これは彼を襲う災難の序章に過ぎなかった。モンスターが襲ってきた事で分かる通り、この遺跡は他にも襲いかかるモンスターが無数にいる。それに、調査隊が閉じ込められていたように遺跡には侵入者を襲う罠がまだ生きている。

 ユウタスは格闘家らしい生存本能の勘を研ぎ澄ませ、それらを慎重に排除していかねばならなくなっていた。

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