第104話 実力差
「もう小細工はやめだ。このまま俺が天空島を蹂躙してやるぜ」
さっきの爆発で吹き飛ばされた3人は体にヒドいダメージを負って、それぞれかなり離れた場所に転がっている。みんな意識はあるものの、立ち上がる気力すら失ってしまっていた。
ユウタスは何とか顔だけ上げると、高笑いをする悪魔の顔を見る。
「くそっ、強すぎる……。魔王の魂を宿してなくても、別格じゃないか……」
ゲリアルは周りの様子を見回して自分の力を確認すると、視線を街のある方角に向けた。どうやら、次に何をするのか決めたようだ。
「さて……」
このままでは街の住民が危ない。それが分かっていても3人はもう動けない。何も出来ない歯がゆさに、ユウタスは下唇を噛む。悪魔は背中の羽を広げ、次の攻撃対象に向かって飛び上がった。
この時、空の一点から何かが遺跡に向かってものすごいスピードで向かってくる。結界が破壊されたので、天空人も普通にこのエリアに入る事が出来るようになったのだ。
この謎の侵入者の乱入に、流石のゲリアルも動揺する。
「な、一体何が起こっている?」
「わざわざ結界を破壊してくれて有難うよ! これはそのお礼だーッ!」
現れたのは、3回戦でのユウタスの対戦相手でもあったパルウだった。彼は拳を構えたまま超高速で悪魔との距離を詰め、その渾身の一撃を振るう。
その単純ながらも桁違いのパワーのパンチをノーガードで受けた悪魔は、このたった一撃でそのまま天空島の外まで弾け飛んでいった。
「ぐべらーッ!」
「成敗!」
「う……嘘……だろ?」
全く敵わなかった相手を一撃で葬り去ったその一部始終を見ていたユウタスは、あまりの実力の違いにあんぐりと口を大きく開ける。悪魔の驚異も去り、それでプチンと緊張の糸も切れたのか、彼の意識はそこで途絶えてしまった。
その後に救助隊もやってきて、その場に倒れていた3人を回収。こうして事件は無事に解決したのだった。
数日後、中断していた試合は再開される事となった。とは言え、図らずもパルウの真の実力を知ってしまったユウタスは、どうあがいても勝ち目なんてない事を自覚してしまっている。
ステージの上で軽くファイティングポーズを取る無傷のムキムキマッチョマンは、復帰した若き天空人拳闘士に優しく微笑みかけた。
「こんな短期間で復活するとは流石だよ。先の経験を経て、君はさらに強くなったのだろうね」
「かも知れないですけど、まだまだあなたには遠く及びません……力の差を思い知りました」
「若者が戦う前から萎縮してどうする。全力でかかってきなさい。私も全力で受け止めよう」
「……分かりました。その胸、お借りします!」
試合開始の鐘が鳴り、中断されていた3回戦が再開される。ユウタスも本気の先の実力までぶつけたものの、全ての技はパルウの大きな大胸筋にことごとく受け止められてしまう。
全ての技を余裕で受けきった実力者は、特に技とも言えないただのパンチを繰り出し、その一撃を受けたユウタスは前のめりで倒れた。
「さ、流石……です……ぐほっ……」
こうして、再開された3回戦は1分もしない内に決着が着く。若き挑戦者の野望は一撃で沈んだものの、その勇気は観客の心を大いに動かし、割れんばかりの大歓声が会場を包み込んだのだった。
大音量の拍手の鳴り響く中、応援席にいたカナは幼馴染の呆気なく倒れる姿を見て悲鳴を上げる。
「ユウタスーッ!」
「はは、結局ユウタスの完敗だったね」
「でも、全力を出し切ったその姿はカッコ良かったです」
「だね!」
隣で観戦していたアレサとアコは仲間の負けっぷりを見て、他の大勢の観客と同じように拍手のエールを送っていた。パルウの一撃はダメージの残るものではなく、勝敗が決したタイミングでユウタスはヨロヨロと起き上がる。そうして、自分の負けを悟り、観客席に応援のお礼として手を振って応えたのだった。
そのよく動いている姿を見たカナは、ほっと胸をなでおろす。
「良かった。無事だった」
「あのパルウのおっさん、ちゃんと計算して殴ってたよ。ユウタスにダメージはほとんどないから」
「そうみたいだね、あの顔を見たら分かる」
アレサの解説を聞いて、カナもようやく笑う事が出来た。その後も試合は順調に進み、結局パルウが優勝。こうして大会は無事幕を閉じた。ユウタスは2回戦突破の賞金を貰い会場を後にする。
彼が外に出たところで目に飛び込んできたのは、応援の女子3人と彼の父親の姿。父親はユウタスの肩に優しく手を置いた。
「よくやったな。上には上がいると分かっただろう、更に精進するんだぞ」
「はい、師匠。更に道に励みます」
「よく言った! それでこそ我が息子だ」
試合も終わり、ユウタスはまた傭兵の仕事を再開させるために地上へ。アレサとアコと供に転移陣へと向かう中、カナも見送りについてくる。
「冒険、無理しないでね」
「大丈夫だって」
「カナ、私達がちゃんとサポートするから大丈夫だよ」
「アレサ、アコ、ユウタスを頼むね」
天空島の幼馴染に見守られながら、ユウタス達はまた地上へと降りていった。こうして、また3人での冒険者としての生活が始まる。
ユウタスは拳を強く握りしめ、今より更に強くなる事を自分の胸に強く誓うのだった。
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