第100話 洗脳されたユウタス

 2人に戦う意志がない事を感じ取ったユウタスはその動きを観察し、確実に仕留めようと動き出す。アレサ1人なら逃げ切れたかも知れないものの、アコを引っ張っていた事もあり、彼に簡単に回り込まれてしまう。

 行く手を封じられてしまったため、2人は走るのを強制的に止め、ユウタスとの間合いを取った。


「逃してくれそうにないな、こりゃ」

「ダメです、相手はユウタスなんですよ!」

「けどこのままじゃ、やられちまうだろ!」


 アレサは剣を鞘から抜き、仲間に向かって構える。その切っ先はかすかに揺れていた。


「正気に戻ってくれよ……俺だってこんな事したくないんだ」

「我らが魔王様のためにっ!」


 意識を乗っ取られたユウタスは、躊躇なくアレサに向かって襲いかかる。剣と拳、まともにぶつかれば肉体で攻撃する拳では戦いにならないはずなのに、気を纏ったその硬い拳はアレサの剣を無傷で簡単に弾いてしまう。


「くううっ」

「アレサッ!」

「大丈夫、このくらい!」


 体勢を崩されたアレサはすぐに剣を構え直すと、ユウタスに向かって本気で技を繰り出していく。その連撃に対して、ユウタスもまるで鏡のような正確さで打ち返し、均衡する力は容易に決着を見せなかった。

 相手に全く容赦のないユウタスに対し、アレサは出来るだけ相手を傷つけないように気を使いながらの戦い。長引けばどちらが不利になるのか戦闘の部外者のアコでもそれは容易に判断がつく。


「私も援護します!」

「た、頼む!」


 アコは魔法の杖を取り出し、目の前で暴れる天空人に目標を定める。並の魔法では弾かれるだろうと意識を深く集中した。


「雷の精霊よ、杖に宿れ! 雷球!」


 かざした杖の先から魔法エネルギーが凝縮され、ユウタスに向かって真っ直ぐに飛んでいく。アレサとの戦いに夢中になっているその瞬間に発動したので、避けられる事もなく見事に魔法はユウタスに直撃する。

 しかし、雷球がユウタスの体に当たった瞬間、ユウタスにかけられていた反射結界が発動。魔法はアコに向かって跳ね返る。この展開を全く想定していなかった彼女は、そのまま自身の魔法に襲われ自爆。その場に倒れてしまう。


「アコーッ!」

「馬鹿め、油断したな!」


 アコが倒れた時に意識を向けたその隙を突かれ、アレサもユウタスのきつい一撃を受け、その場に倒れ込んでしまう。

 とどめが刺されようとしたところで、ユウタスをさらった張本人が空から現れた。


「これは珍しい侵入者だな」

「ゲリアル様……」

「折角の観客だ。間近で世紀の瞬間を拝ませてやろうじゃないか」


 こうして2人は捕まり、そのまま遺跡の中央部に運ばれていった。拘束された2人が目を覚ますと、そこには正気ではないユウタスと悪魔が。

 アレサはしばらくの間、目の前の光景に理解が追いつかない。


「んあ? ここは?」

「ほう、意外と早いな。まぁそこで見ているがいい」


 悪魔、ゲリアルはそう言って不敵に笑う。その地面には謎の魔法陣を描かれ、中央に置かれた立派そうな椅子にはユウタスが座っていた。それは、魔法的な力で拘束されている様にも見える。

 さっき襲ってきた時とはまるで別人のようで、強くまぶたを閉じて深く眠っているみたいだった。


「お前! ユウタスに何をしたんだ!」

「丁度いい素体だったのでな、利用させてもらう事にしたのさ」

「だから、目的は何!」

「お前、この遺跡が何を封じているのか知らんのだな?」


 ゲリアルはマジ顔になってアレサの顔をにらむ。殺風景な遺跡に重い沈黙が訪れた。プレッシャーに負けないようにと、彼女も精一杯の大声を張り上げる。


「分っかんないから聞いてんだよ!」

「ここは我が悪魔軍と天空軍がその領地を巡り争った場所。その争いにおいて我が王は封じられてしまい、戦争は天空軍の勝利に終わってしまった」

「それは、あの伝説の天魔の戦争の事ですね。この遺跡がそうだったんですか……」


 2人の会話に口を挟んできたのはアコだった。どうやら彼女も目覚めたらしい。しかも、起きて早々なのに意識はハッキリしているようだ。

 アレサはこの博識少女の復活に、向けていた視線を悪魔から隣に移す。


「アコ? もう大丈夫なのか?」

「うん、何とか。でもそれどころじゃないよ。あの悪魔の目的は恐らく……」

「そうだとも! 俺は今ここにこの地に封じられた我が王の復活を宣言する!」


 ゲリアルはそう言うと立ち上がる。そうして右手を上げて指を指し、反対の左手を地面に指した。すると魔法陣が活性化して地面が振動し始める。

 この明らかにヤバそうな現象を前にして、アコはアレサの顔を強く見つめた。

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