第99話 地上の罠を抜けた先に
「「うわああーっ!」」
2人の絶叫が収まると、そこは見慣れないエリア。ただし、今までの地下の風景ではなかった。お約束の転移魔法陣によって、アレサ達は何とか地上に戻ってこられたようだ。
すぐに2人はお互いの姿を見て、相手の無事を確認する。
「アコ、平気か?」
「はい、大丈夫です。でも、ここは……」
「お、おい……」
アコの状態を確認し、転移先の場所の周囲をチェックしていたアレサは、ここで目に飛び込んできた景色に驚愕した。
「見ろ、あの木!」
「こんな廃墟同然の遺跡に木?」
「アコの後ろだよ、見えるだろ?」
「え? 嘘?」
振り返ったアコは思わず自分の目を疑った。転移した先もさっきまで彷徨っていた遺跡と同じ景色が目の前に広がっている。だから木々はおろか、雑草すら生えていないはずなのに、そこに巨大な木がそびえ立っていたのだ。
この謎の現象を前にして、アコは顎に指を添えて首をひねる。
「何でこんな所に……あの木だけ生えてるんですか」
「そんなの知らねーよ。でもよ、取り敢えず確認してみようぜ」
「ちょ、無闇に近付いたら危険……」
アコが止めるのも聞かずに、アレサは木に向かって歩いていく。まるで灯りに吸い寄せられる蛾のように、フラフラと彼女は木に近付いていった。
「待ってください、危険です!」
「いや、全然そんな事はないぞ。木からは不穏な気配を全然感じないしな。こう言う時の俺の勘は結構当た……」
アレサはアコの心配を払拭させようと、木に触ろうとする。その時、謎の現象が彼女を襲った。伸ばした右手が木に触れる事がなかったのだ。
アレサは更に左手も伸ばすものの、そこに見えて触れるはずの木の幹は幻のように伸ばした手を飲み込んでしまう。
「え? これ、どう言う事だ?」
「もしかしたら……この木は本当は存在していないんじゃないですか?」
「幻か? 魔法か何かで木の姿をここに投影している?」
「そうか! 分かりました!」
立体映像の木を見て何か閃いたアコはすぐに困惑したままのアコの手を握ると、そのまま別方向の壁に向かって走り出した。この突然の行動にアレサは更に混乱する。
「ちょま、そっちは壁だって」
「試したいことがあるんです、きっと大丈夫ですよ!」
「嘘だろ! ぶつかっ……」
どんどん迫ってくる壁を前にしてもアコのスピードは変わらない。アレサはぶつかる事を覚悟してまぶたをギュッと閉じた。2人はそのまま壁に接触し、そして――壁をすり抜けてしまう。
この不思議な現象を体験したアレサは言葉を失い、アコは嬉しそうに頬を緩ませた。
「やっぱりそうです。この壁、見えているだけだったんですよ!」
「……マジかよ」
興奮するアコはすぐに追跡コンパスを取り出し、ユウタスの現在地を確認する。そうして顔を上げると、その方向に向かって指を指した。
「この方向にユウタスはいます。まっすぐ向かいましょう」
「あ、ああ……」
いきなりリーダーシップを取り始めたアコに多少戸惑いながら、アレサも素直に後についていった。転移した先のエリアの遺跡の壁はほぼフェイクで、壁を抜けながらコンパスを頼りに最短距離を進むだけで、いつの間にか目的の場所まで辿り着く事が出来ていた。
「壁の中を通り抜けるって変な感覚だな」
「物質透過能力者になった気分ですね!」
「何でそんなに嬉しそうなんだよ」
「え? だって楽しいでしょ?」
アコのはしゃぎっぷりにアレサが頭を抱えてると、2人に近付く謎の影が。気配に気付いた2人は、武器を構えながらその影の方に顔を向ける。
そこにいたのは――2人がこの遺跡に入った目的、ユウタスだった。アレサはこの意外な出会いに、目を丸くする。
「ユウタス、無事だったのか!」
「侵入者は殺す!」
悪魔に連れ去られたはずのユウタスが、何もなく2人の目の前に現れるはずがない。お約束通りに洗脳されていたのだ。
正気を失った彼の目を見て、2人はゴクリとつばを飲み込んだ。
「ま、待て、俺だよ! アレサだよ!」
「アコです! 私達仲間ですよ!」
「魔王様の復活を邪魔するものは……排除する……」
2人の説得は通じず、ユウタスはいきなり襲ってきた。その魂のこもっていないただ殴るだけの攻撃をなんとかかわしたアレサは、戸惑うアコの手を握り反対方向に一目散に走り出す。
「ちょ、アレサ?」
「ここはまず逃げて、作戦を練り直すぞ!」
「は、はいっ!」
アレサの意図が分かったアコも懸命に駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます