第98話 地下迷宮攻略中
「今度はまぶたを閉じて同じ事をしてみてください」
「え? ああ……」
その指示通りにアレサはぎゅっとまぶたを閉じて一歩を踏み出す。すると、今度は思い通りの場所に足は降ろされていた。感覚からそれが分かった彼女がまぶたを上げた途端、気持ち悪くなったのかその場でうずくまってしまう。
「何だこれ……。目を開けた途端に急に頭がおかしくなった……」
「それです!」
「え?」
「このトラップは視界に作用しているんです。まぶたを閉じていれば抜けられます、きっと!」
アコのこの説を身をもって実感したアレサは、そこで強くうなずいた。
「方法はそれでいいとして、どのくらい進めば抜けられる?」
「分かりません。疲れたら立ち止まって休憩して、またまぶたを閉じて移動するを繰り返させばいつかは……」
「分かった! それで行こう!」
こうして、アコの作戦で2人は少しずつ確実にこのトラップの有効エリアを踏破していく。何度目かの休憩を挟んで、何とか感覚異常エリアを抜ける事に成功した。
「ん、ここから何か感覚が違う。抜けたんだ! やった!」
「や、やりました……ね……」
抜けるまで神経を研ぎ澄ませていたアコは、アレサの宣言で気が抜けてその場に倒れ込んでしまった。
「お、おい、大丈夫か?」
「ちょっと休めば……多分。ごめんなさい、ゆっくりしてられないのに」
「いや、俺もかなり疲れた。ここでちゃんと休もう」
2人はその場で座り込むと、しばらく本格的に休憩する。ずっと罠にかかりまくっていたのもあって、かなりダメージが蓄積されていたのだ。肉体のダメージはマジックポーションで回復出来るものの、精神的なダメージはそう簡単に行かない。
罠を抜けたその場所は少し広くなっており、その中央部分には噴水のようなものがある事が分かった。しっかり確認するとそれは人工的な泉のようで、たくさんの水を讃えていてキラキラと光を反射している。
水の存在を目にしたアレサは、目の色を変えてすっくと立ち上がった。どうやら喉の渇きを覚えてしまったらしい。飢えを訴える獣のような表情を浮かべながら、彼女は泉の場所に向かって駆け出した。
「やった! 水だ!」
「ちょ、待って!」
今まさに泉に手を突っ込もうとしたところで、アコがそれを急いで止める。その行為に気を悪くしたアレサは、鬼の形相で振り返った。
「何だよアコ!」
「おかしいでしょ。今まで罠だらけだったのにこんな……きっとこれも罠だよ!」
「そんな訳ないでしょ。こんなに綺麗で美味しそうな水が」
「じゃあ私に確認させて」
アコは荷物の中から毒判定キットを取り出して、泉の水の成分の鑑定を行った。キットに水を一滴垂らすだけで、安全かどうかがすぐに分かる便利アイテムだ。
で、その結果は――大型肉食動物も一発で絶命させるほどの猛毒と言う判定。この結果を見たアコは、途端にドヤ顔になる。
「ほら!」
「ぐぬぬ……こんなに美味しそうなのに」
「水なら手持ちのがあるよ。はい」
アコは荷物の中から水筒を取り出してアレサに手渡す。彼女はそれをごくごくと一気に飲み干し、落ち着いたところでため息を豪快に吐き出した。
「ぷはぁ~。何だか水を飲んだらスッキリ落ち着いたよ、有難う」
「アレサが毒を飲んで死ななくて良かった」
「本当、危なかったぜ」
「じゃ、先に行きましょうか」
泉の罠エリアを抜けると、遺跡のガーディアンが警備しているエリアに突入する。機械的に動く警備人形はアレサの敵ではなく、彼女の剣技によって簡単にその機能を停止させていた。
ガーディアンが出てくると言っても、そのエリアに罠がないとは言い切れない事もあって、2人は敵を倒しながら慎重に進んでいく。
ガーディアンは長年動いていたために情報共有機能が壊れていたのか、一気に多数で襲ってくる気配は一切なかった。そのまま進んでいる内に、2人はまた敵のいないエリアに足を踏み入れる。
足音しか響かなくなった通路を歩きながら、アレサは周囲を警戒する。
「また淋しくなっちまったな」
「油断しない方がいいですよ……あっ」
アコが背後を気にしながらアレサに返事を返していたところで、床の僅かな突起に足を取られてしまう。この時も2人は手を繋いでいたので、そのまま一緒に倒れ込んでしまった。
「いてて……アコ、足元はちゃんと見てくれよ」
「すみません。あ、これ……」
アコは、倒れ込んだ場所の床に魔法陣が浮かび上がっている事に気付く。それをアレサに伝えようとしたところ、そこから強烈な光が発生して2人もろとも周囲の空間を包み込んでいった。
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