第97話 罠だらけの地下迷宮

「うわあっ!」

「走りながら避けるよっ!」


 飛んでくる矢は自動的に飛んでいるだけで、別に2人を狙っている訳ではない。なので、上手くタイミングを計れば当たる事はなかった。次々にその矢を避けながら夢中になって走っている内に、気がついたら罠エリアを無事に通り抜けていた。

 矢が飛んでこなくなったのを確認した2人はその場で足を止め、息を整える。


「はぁはぁ……。何ですぐにアコのスキルが発動しちゃうんだよ」

「私のせいですかっ?!」

「間違いなくな」

「うう……」


 アレサの言葉にショックを受けたアコはうなだれる。アレサはそんな彼女の肩をポンポンと軽く叩いた。


「大丈夫、どんなピンチも俺が何とかするから、任せな」

「分かりました」


 こうして2人は仲直りをして、また歩き始める。敵はいなくても罠はあると言う事で慎重に警戒しながら進み始めると、今度は後方から感情のない人形のような何かが追いかけてきた。

 のっぺらぼうなその何かを見ただけで2人は恐怖を覚え、すぐに駆け出した。


 走りながらアコは魔法で攻撃を試みるもの、放った魔法は全て弾かれてしまう。そこでアレサが投げナイフをお見舞いしたものの、この攻撃も簡単に弾かれてしまった。


「攻撃は無効みたいです。何とかまきましょう!」

「分かった、こっちだ!」


 アコのアドバイスを受けたアレサは、感覚を研ぎ澄まして人形が追いかけてこないルートを直感で選び取る。その選択が正しかったのか、破壊不能な動く障害物を何とかやり過ごす事に成功する。


「ふう、行ったな」

「戻ってきませんね」

「よし、行くか」


 その場で少し休んだ後、迷宮探索を再開。2人はまた罠を警戒しつつ、少しずつ先へ先へと進んでいった。


 地下迷宮は地上と違ってしっかりした作りで、壁などもほぼ崩壊していない。何のために作られたのか、元々どう言うものだったのかは分からないものの、魔法照明が生きている以上、永久機関的なものがどこかで動き続けているのかも知れない。そんな迷宮を2人は慎重に探索していく。

 ある程度進んだところで、マッパー担当のアコが未通行の道を指し示した。


「あの……こっちの左端の道、まだ通ってないです」

「うーん、何だか嫌な予感がするんだよな」

「じゃあ、やめます?」

「いや、行く!」


 アレサは自分の勘を信じつつも、敢えて嫌な予感をする道を選ぶ。そのルートもまた、今まで同じで代わり映えのしないただの無機質な通路に見えた。

 と、そこでまたアコが床の何かを踏んでしまい、罠のスイッチを作動させてしまう。


「あの、ごめんなさい! なんか踏んじゃいました!」

「嘘だろ?!」


 彼女の報告の直後、通路全体に高圧電流が流れる。2人は同時に感電し、成す術もなく丸焦げになってしまった。かなりのダメージを負ったものの、すぐに魔法薬を飲んで回復する。

 この電撃攻撃は一回こっきりだったので、その後、何とかこのエリアも通過する事が出来た。


「アコのせいでどんどんポーションのストックがなくなるな」

「それはごめんなさーい」

「ま、気にすんな。先に進むぞ」


 アレサはニヤリと笑うとアコの手を引いた。魔法薬はまだ30本以上あるので、だからこその余裕なのだろう。

 地下迷宮はまだまだ奥が深く、どこまで歩いても地上への出口らしきものは見つからない。2人はまだまだこの階層を迷わねばならないようだ。


 迷いに迷っていたところ、2人は突然謎の違和感に襲われる。


「あれ? 俺達どこから来たんだっけ?」

「何言ってんですか、私達はあっちから……え?」


 2人は後方の景色を見て首を振る。視界がぼやけてハッキリと認識出来なくなっていたのだ。背後は仕方ないと言う事で振り返って進み始めたものの、今度は体が思った通りに動かない。

 右に動こうとしたら左に行ってしまうし、それを意識して逆に動こうとすると今度はその場でぐるぐると回ってしまう。


「ど、どうなってんだこれ?」

「きっとこれも罠ですぅ……」


 どうやっても正常に動く事が出来ないと分かり、2人は一旦立ち止まる。止まってしまえば体が勝手に動き出す事もなく、敵も襲ってくる気配がないと言う事で、2人はそこで落ち着いてこの罠からの脱出方法を考え始めた。


「止まっていれば何も起こらないな」

「でもそれじゃ何も解決しません」

「まずは、この罠の発生条件を確認するんだ」


 アレサはそう言うと一歩前に踏み出そうとした。振り上げた足は意識した場所に下ろせない。ぐにゃりと間隔が歪み、明後日の方向に足を下ろしてしまう。

 その様子をじっくりと観察していたアコは、ひとつ提案する。

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