第95話 天空島の封印遺跡
「あの雲、あの辺りはいつもああなんですか?」
「いや、違う。きっと何か良くない事が起こっているのだろう。悪魔が何か企んでいるはずだ。急がねば」
島の異常事態を前に、ユウタスの父は歩く速度を早めた。アレサは何とか付いて行けるものの、一般人枠のアコは走らないと置いて行かれる格好になる。必死で追いつこうと彼女は走った。
アコの体力が限界になろうかと言うタイミングで、一行は山の周囲の漂う怪しげな雲の中に突入する。突然視界が悪くなってアレサは困惑した。
「うわっ前が見えない……」
「大丈夫か? ついてきているか?」
「何とか……」
有効視界範囲は周囲2,3メートルと言ったところだろうか? この視界の悪さに一行が手探りで進んでいると、またしても視界が開け、突然目の前に謎の廃墟が出現する。
こう言うのが好きなアコは目をランランと輝かせた。
「すごい。あれって、天空文明の遺跡ですか?」
「ああそうだ。大昔に悪魔の親玉が攻めてきて我々の先祖が戦い、そうして敵を封印した場所」
「封印遺跡! 天空島にもあったのですね」
「その封印のせいで我々は遺跡に近付けないのだがね」
そこまで言うと、ユウタスの父はピタッと足を止める。今まで盲目的に後に続いていた2人は、この突然の停止によってそれぞれの前の人の背中にぶつかりそうになってつんのめった。
「わわっ!」
「あっぶな!」
「ああ、突然止まって悪かった。ここから先、我々は進めないんだ」
ユウタスの父はアレサ達に頭を下げると、前方の景色に注意を払うよう促した。アレサは魔法感知力が弱くてじいっと目の前の景色を注意深く眺めていたものの、逆に魔法の才能のあるアコはすぐに遺跡の周りに張り巡らされている魔法結界に気付く。
「これは……、かなり高度な結界ですね。天空人だけ拒むって一体?」
「この地に封じた魔王を復活させないためだ。天空人がそのトリガーになってしまう可能性もあるため、入れないようになっている」
「で、でもユウタスはこの中なんですよね?」
「魔法を使った異次元転移で無理やり入ったのだろう。中に入ってしまえばその効果は無効だ」
ユウタスの父は道を譲ると、手を差し出してアレサ達に目の前の遺跡に入るように促す。ここから先の案内はない事が分かり、彼女達は覚悟を決めた。
「ではユウタスのお父様、必ず仕事の依頼を果たしてみせます!」
「ああ、期待している。全員無事に戻ってきてくれ」
こうして仲間の肉親に見送られながら、地上組の2人は遺跡に向かって歩き出す。ある程度歩いたところで、見えない壁がやんわりと彼女達の行く手を阻んだ。
「アコ、これは……」
「大丈夫、手を前に出してください。それで結界は中和されます」
この手の結界に詳しいアコの指示通りにしたところで、柔らかい壁は溶けるように人が入れる分だけの隙間を広げさせた。壁がなくなった事で、2人は難なく一歩を踏み出す。
その先にあったのは、ついさっき戦争が終わったばかりにすら見える、何とも凄惨な廃墟の光景だった。
「こ、これは……」
「きっとずっと昔に戦いは終わったはずなのに、ついさっきまで争ってみたいな雰囲気ですね。匂いまで漂ってきそうな……」
「あの結界が時間の流れを止めているのかもだぞ……」
2人は初めて見るその生々しい戦いの跡地にクラクラとめまいを覚えそうになっていた。2人共冒険での戦闘の経験こそあるものの、大規模な戦争の経験はない。
この世界、地上を含めても大規模な戦争は200年以上前には終結している。そこから先の時代は小規模な小競り合いくらいしか起こってはいない。
しばらく立ち尽くしていたところで、2人に近付く違和感をアレサが察知した。
「アコ、何か来る!」
「あの悪魔でしょうか?」
「とにかく戦闘準備だ、油断するな!」
2人が早速それぞれの武器を構えたとほぼ同時に、地上で見るようなモンスターが7体程ワラワラと現れる。どのモンスターも目の色が尋常ではない。
まるで何かに操られたかように、機械的な動きで2人に襲いかかってきた。
「お前らみたいな雑魚には剣技すら惜しいんだよっ!」
「ち、近付かないでくださーい!」
アレサは剣を振り回し、アコは消費魔力の少ない炎の玉の魔法を撃ちまくる。立ち塞がるモンスターも大して強くなかったので、このピンチは割とあっさりめに片付ける事が出来た。
剣を鞘に収めながら、アレサは隣で呼吸を整えているアコの顔を見る。
「急ごう! アコ、コンパスお願い!」
「はい、こっちです」
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