第94話 ユウタスの父からの依頼

 ユウタスの父はまず、地上組と同じ席で応援していたカナと接触。


「カナ君、1人のようだね。地上から来た2人は?」

「おじ様! ユウタスが!」

「分かっている。息子を助けるのに地上から来たあの2人がどうしても必要なんだ」

「アレサ達はユウタスを探すってスタジアムから出て……。まだそんな遠くには……」


 彼女からアレサ達の情報を得たユウタスの父はペコリと頭を下げると、すぐにスタジアムの外に飛び出した。そうして近場に探し求める2人がいないかどうか、空を飛びながら探し始める。流石に上空から探すとすぐに該当者が目に入ったようだ。

 そこで一気に側に急降下して降りたところ、この突然の来訪者にアレサ達は驚き、警戒する。


「だ、誰だ!」

「やあ、驚かせて済まない。私はユウタスの父だ。もしかして君達も息子を?」

「あの、でも見失ってしまって……」


 アコはそう言うと申し訳無さそうにうつむいてしまう。アレサもまた悔しさを顔に浮かばせていた。

 2人の表情を見たユウタスの父は、両手を彼女達の肩にポンと優しく乗せる。


「安心してくれ、息子の居場所はもう判明している」

「本当ですか?」

「で、実は2人に頼みがあるんだが……息子の救出に力を貸してくれないか?」

「わ、私達に何か出来るなら……」


 アレサ達が乗り気な事を確認して、ユウタスの父は事情を説明する。その場所が天空人には近付けない場所であると言う事。地上人なら問題なく入れる事。その為、ユウタスの救出にはアレサ達の協力が不可欠な事――。

 事情を聞き終えたアレサは、ふたつ返事でこの父親からの頼みを受け入れる。


「分かりました。協力します」

「君達も冒険者だ。だからこれは私からの依頼と言う事でどうだろう。当然報酬は払う」

「そんな……」

「その依頼、お任せください! 格安で引き受けます!」


 アコはただでユウタス救出をしようとしたものの、その言葉を打ち消すようにアレサが言葉をかぶせる。彼女の言葉の方が力強かったために、ユウタス救出は彼の父からの依頼と言う形となった。


「では、早速仕事をお願いするよ。地上の冒険者達」

「では、案内を願いします」

「ちょっと待って!」

「カナ?」


 アレサが道案内をお願いしたところ、それを阻止するようにカナが現れた。彼女はアレサ達の前まで小走りで走り寄ってきて、着いた途端に呼吸を整える。


「お願い、ユウタスを必ず助けてね!」

「ああ、受けた仕事はきっちりこなしてみせるぜ!」

「おーい!」


 アレサとカナが話をしているところに、別の声も聞こえてきた。その声の方に全員が顔を向けると、その視線の先にいたのはユウタスのライバル、トルスだった。どうやらカナの後を付けてきていたらしい。

 彼もまたアレサ達の前まで詰め寄ると、息を整える。


「ユウタスを助けに行くんだろう? じゃあ、あいつに渡して欲しいものがあるんだ」


 トルスはそう言うとポケットから何かを取り出し、アレサの前にそれを差し出す。


「これって……」

「天空神の加護だ。レプリカだけど、今までよりずっと質のいいやつだよ。きっと役に立つ」

「分かった。きっと渡すよ」

「頼む」


 こうして話も終わったと言う事で、アレサ達はユウタスの父の案内でユウタスが捕まっている場所に向かって歩き始める。その様子をカナとトルスは見えなくなるまでずっと見送っていた。

 コロシアムを出た3人はそのまま救出には向かわずに、何故か街の方に歩いていく。


「まずは準備を整えようか。君達は息子の応援に来ただけなのだろう。今から向かう場所は何が起こるか分からない。武器もいるだろうし」

「そ、そうですね。あの……ここ、荷物の転送サービスって」

「当然あるさ。こっちだ」


 ユウタスの父の案内で、アレサ達は冒険で使う装備を地上から取り寄せる事が出来た。その上で天空の街の商店で傷薬やポーションなどの道具を買い揃えていく。出来得る限りのありったけの準備が出来たところで、ようやくユウタス救出が本格的に開始された。

 その場所を知っているユウタスの父を先頭に歩いていきながら、アコが恐る恐る声をかける。


「あの、その場所は遠いんですか」

「いや、ここからだと1時間かからないくらいだろう」

「そんなに近かったんだ」

「ああ、あそこに見えるあの山のふもとのあたりだ」


 ユウタスの父が前方の山を指差した。とても立派な山ではあるものの、どことなく不穏な気配も漂わせている。しかも雲の上の天空島にも関わらず、謎の雲のようなものが山の周囲を覆っていた。

 この不思議な景色を見たアコは、好奇心が疼き始める。

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