第93話 悪魔の目的

 2人は迷いなくその異空間に飛び込む。商品説明の通りなら、この空間をまっすぐ走り抜けるだけで、自動的に空間が追尾してターゲットに追いつくはずだった。


 けれど、商品が欠陥品だったのか、悪魔がこの魔方陣に対して何らかの対策をしていたのか、とにかく走っても走ってもその都度空間が歪むだけで一向に悪魔のいる場所に辿り着く事が出来ない。

 どこまで走っても、全体的に濃い紫色のストレスが溜まりそうな空間の中を彷徨うばかり。


「どう言う事だよこれっ!」

「私にも分かりませんよう!」


 その内に魔法陣のタイムリミットになり、2人は強制的に元の場所に戻される。目的が達成されない場合、そうなるように設定されているのだ。

 ユウタスの追跡、救出に失敗し、アレサは思いっきり地面を叩いた。


「あーっ! 何でだよっ!」

「落ち着いてアレサ。何か別の手を考えましょう」

「別の手って何だよ!」


 イライラが頂点に達していたアレサは、アコに向かって不満をぶつける。その感情の塊を胸に受けて、アコは言葉に詰まってしまった。


「それは……とにかく今はこうなってしまった原因を考えないと……」

「あの魔法陣がパチモンだったんだよ! それ以外にないだろ!」

「それは……そうかもですけど……」


 この追跡魔法陣はアコが怪しげなマジックアイテム屋で購入した物。なのでアレサは間接的にアコを非難する形になってしまう。

 落ち込む彼女の姿を見たアレサもかける言葉を失い、しばらく2人の間に沈黙が流れたのだった。



 その頃、拉致されたユウタスは見渡す限りの廃墟に運ばれていた。そうして、気を失ったまま悪魔によってはりつけにされる。


「ふふふ、いいぞ、これで準備は整った」


 悪魔は腕を組んで自分の仕事の成果に満足していた。1人きりで自己満足の気持ちに浸った後、ユウタスの位置を中心とした魔法陣をいくつも床に描き始める。

 悪魔は魔法のチョークを使って悪魔文字などを書き込みながら、鼻歌のように魔王を称える呪文を唱え続けた。やがて誰の邪魔も入る事なく、それらの儀式は滞りなく完了する。


「これで……これで魔王様を封印から解く事が出来る。長かった……実に……」


 悪魔の目的はこれではっきりした。ユウタスを使って封じられた魔王を復活させようとしていたのだ。復活の準備が完全に整い、早速効果は出始める。なんと、雲の上に浮かぶ天空島なのにも関わらず、厚い雲が島を包み込み始めたのだ。

 紫がかった不気味なその雲は天空島全体を覆い、島民はこの有り得ない現象に恐ろしい恐怖を抱き始める。


 それは天空闘技場もまた同じだった。コロシアムではパニックになった観客達が大騒ぎ。すぐに自分の家に帰ろうとする人達や、その場で絶叫する人、神に祈る人、失神する人まで出る有様。


 こうなってしまったのは全てユウタスが悪魔に拉致されたからだと言う事になり、天空人の中でもよりすぐりの捜索のプロが動き始める。

 アレサ達が失敗してしまったその捜索を、プロ達はほんの20分程で完了させていた。


「局長、彼の居場所が分かりました!」

「流石だな、どこだ?」

「それが……」


 調査隊の隊長は報告の途中で突然口ごもる。対策本部局長はジロリとにらみを効かせ、無言のプレッシャーをかけてきた。

 しばらくの間沈黙は続き、意を決した隊長が重い口を開く。


「その場所は古代遺跡なのです。あの禁忌の地の……」

「な、何……だと?」


 調査隊が見つけたユウタスの居場所、それは天空人達にとっていわくありげな場所らしい。禁忌の場所と言う事は、天空人達にとって立ち入っては行けない場所と言う事なのだろう。

 折角突止められたのに、それが自分達では手が出せない場所だと言う事が分かり、捜索チームの士気は分かりやすく下がっていった。


「しかしこれからどうする……あの場所は厄介だぞ。だがその前に、この事を親族にどう伝えれば……」

「私ならここにいる。それから、提案があるのだが」

「あ、あなたは……」


 捜索チームが次の一手に悩む中、そこにユウタスの父が現れた。彼は今回観客として息子の試合を見に来ていて、真相を知るために捜索チームの前に顔を出したのだ。

 局長が昔アビゲイル流の道場で修行していた縁もあって、この部外者の提案をチームは快く受け入れる。


「で、その策とは?」

「今日は息子の応援に地上人の手練が上がってきている。彼女達に協力を仰ぐのだよ」

「なるほど、あの場所も地上人なら……。ではお願いします。私達はその後の事について協議します」


 こうして、ユウタスの父の提案は受け入れられ、現場はまた忙しく回り始めた。そんな人の流れを眺めながら、彼はアレサ達を探し始める。

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