第92話 さらわれたユウタス
「さっきの技はすごかったよ。初めて見る。君のオリジナルなのかい?」
「いえ、技自体は一族に伝わるものです。少しアレンジはしましたけど」
「そうか、まだ君にはアレンジは早いのかも知れないな……」
「ですね、では……っ!」
パルウからの有り難い指導を受け、ユウタスは基本に忠実な戦法へと切り替えた。強力な一撃ではなく、手数の多さで少しずつ体力を削る、父直伝のスタイルだ。
呼吸を整え、使う筋肉を意識して各筋肉へ等しくエネルギーを送り続ける。しっかり動きがイメージ出来たところで、もう一度強く床を蹴った。
「神速連撃・夢幻!」
「む……」
かわしきれない素早さの連続攻撃に、流石のパルウも表情から余裕が消えていく。やはり攻撃は流され続けているもの、上手くリズムが取れなくなって来ているようだ。
このまま攻撃のスピードを上げていけばそこに隙も出来るはずと、ユウタスはさらに一歩踏み込んだ。
「このまま押し通……ううっ!」
まだ有利な状態の続く中、ユウタスは突然苦しみだしてその場に倒れてしまった。この予想外の出来事に観覧席はざわつき始め、女子3人も全員が目を丸くする。
「ユウタス?」
「おかしい、まだ反撃は食らっていなかったはず……」
「一体何があったのでしょう?」
実際に対戦をしていたパルウですら状況が飲み込めない中、倒れたユウタスの背後の空間が割れていく。そこから現れたのは邪悪な見た目の悪魔だった。頭に角があり、全身真っ黒で背中にはコウモリの羽。
教科書通りのオーソドックスな悪魔はユウタスを魔空間に連れ込み、そのまま姿を消してしまう。
「対戦者が消えた?」
「えっ? どう言う事?」
「あれって、パルウの新技?」
観覧席はこの突然の出来事に動揺する。悪魔の出現はほんの一瞬だったので、何が起こったのか理解出来ていない人も多かった。
そんな中、同じ光景を見ていたアレサは自分の目が捉えたものを素直に口にする。
「悪魔だよ、悪魔が連れ去った……」
「え? 嘘?」
隣の席に座っていたカナは、その言葉に激しく動揺して顔を青ざめさせていく。天空人にとって悪魔は禁忌の存在だ。同等の力があるなら戦えるにしても、少しでも悪魔の方が強ければ敵意を持って襲われると言う教育を受けている。実際、過去に天空人と悪魔が戦った記録もあるらしい。
なので、非戦闘員のカナが怯えるのも無理のない話だった。
「どうしよう、悪魔だなんて……。ユウタスが殺されちゃう……」
「任せて! 私達が助けるから!」
「あ、はいっ。私達に任せてください!」
アレサ達地上組は胸を張ってそう言い切ると、さらわれた相棒を助けるために駆け出した。カナはその後姿に向かって懸命に手を振る。
「お願いね! 任せたから!」
「吉報を期待してて!」
アレサはカナの言葉に応えながら観覧席を後にした。そこからスタジアムの外へ向かう通路を走りながら振り返り、後ろをついてくるアコの姿を確認する。
「追跡コンパス、持ってるよね」
「持ってる。反応があるからまだ近くにいるよ」
「オッケ、貸して」
アコの持っていたアイテムは対象者の位置を知る事が出来るもの。冒険ではぐれた時に便利だろうとバカンス時に購入していたのだ。アコからアイテムを手渡されたアレサは、コンパスの示す方向に走っていった。
悪魔がいたのはスタジアム近くの空き地。そこで倒れているユウタスをじいっと品定めするように見つめていた。
「ケケケ……こいつなら丁度いいな」
「見つけたーっ!」
その現場に到着したアレサは、悪魔に向かって指をさす。この招かれざる客の登場に、悪魔は目を丸くした。
「何だお前ら! よく分かったな!」
「相棒を返せ! 素直に返すなら見逃してやる!」
「ケケ……誰が返すかよ、ケケ」
悪魔はニヤリと笑うと、また謎空間を開いて一瞬で消えてしまう。折角の奪還のチャンスを失ってしまい、アレサは悔しさで拳を震わせた。
「アコ、アレ持ってる?」
「追跡魔法陣でしょ、今セットしたよ。すぐ発動させるね」
「お願い!」
アコが発動した魔法陣は、さっきの悪魔が使っていた異空間ゲートと同じものを開く事が出来るマジックアイテム。今度は同じ空間に入って奪還する作戦だ。
地面に敷いた魔法陣の書かれたシートに手を当てて、アコは意識を集中させながら呪文を唱える。すると、すぐに反応して空間に異空間への扉が開いた。
「よし、行くよ!」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます