第90話 楽しいランチとその後の悪夢

 その後すぐに次の試合も始まり、2回戦の全ての試合が終わる頃にはお日様が空の一番高い位置に。勝ち残った選手達もランチタイムとなる。


「さて、ご飯ご飯」


 ユウタスがスタジアムのレストランの前でメニューに悩んでいると、そこにカナ達3人が現れた。そうして顎に手を乗せている彼に向かってカナが笑顔で手を振る。


「ユウタス~! 3回戦出場おめでと~」

「お、みんな。有難う」

「いい試合だったぜ」

「アレサに言われると照れるな」


 ユウタスはアレサに褒められて頭をかいた。その様子を見て、カナは機嫌を悪くする。


「さ、御飯食べるんでしょ、一緒に食べようよ」

「そうしよっか」

「あの、何で立ち止まってたんですか?」


 話がまとまったところで、アコが首をかしげる。この質問に、ユウタスは苦笑いをしながら首の後を触った。


「メニューに悩んじゃって。ここ、美味しいものが多いから」

「んもー。相変わらず優柔不断なんだから。じゃあ私が決めてあげる」

「おっ、助かる」


 こうしてユウタスのメニューはカナが強引に選び、その流れでみんなでご飯を食べる事になった。結局カナとユウタスはレストランのおすすめランチのAを選び、アレサは肉もりもりセット、アコは天空ラーメンセットを注文する。

 料理が運ばれてくるまでの待ち時間の間、ユウタスはカナにアレサ達を紹介した。


「朝は時間がなかったからちゃんと紹介出来なかったけど、彼女達と俺、地上で一緒に冒険しているんだ。えっと、こっちの強気そうなのがアレサで、そっちの小動物系なのがアコ。アレサが剣士でアコは……えーと、冒険家?」

「知ってるよ、一緒に試合を見ている時にいっぱい話したし」

「あ、そうなんだ。仲良くなれたようで良かったよ。じゃあ、カナの紹介も必要ないね」

「ああ、ユウタスの幼馴染なんだろう。色々聞いたぜ~」


 アレサはいやらしい笑みを浮かべると、その視線をユウタスに飛ばす。色々と思い当たるフシがあったのか、彼はカナを軽くにらんだ。


「おまっ、変な事仲間に吹き込んでないだろうな?」

「さ~どうかしらあ~」


 会話の流れがおかしな方向に進もうかと言うところで、注文したメニューが届き始め、4人はそれぞれの料理を楽しみ始める。当然、そこで話の内容もリセットされた。

 早速肉もりもりセットの肉を口に入れたアレサは目を輝かせる。


「おおっ、本当にここの料理は美味いんだな」

「でしょ。スタジアムのレストランは島でも評判なのよ」

「特に火の入れ加減が絶妙だな。ハロワンの三ツ星レストラン級だぜ」

「ハロワンってあのハロワンビーチ? 私、地上に行くなら一度は行ってみたいところなの!」


 カナとアレサは食事をしながら意気投合。その様子をユウタスは慈愛に溢れた目で見守っていた。天空ラーメンをすすっていたアコは、ユウタスが暇そうにしているのを見て、落ち着いたタイミングを見計らって質問を飛ばす。


「試合は後何回あるんでしたっけ?」

「今日は後3回戦だけ。準決勝と決勝は明日かな」

「頑張ってくださいね。応援してます!」


 その後も楽しく賑やかな会話は続き、楽しいランチタイムは終わる。食後、ユウタスはみんなと別れ選手用の控室に戻った。

 そうして、体力を完全回復させるためにソファにゴロンと横になる。


 昼寝を開始した直後、彼はいきなり夢の中に彷徨い込む。その世界は辺り一面の廃墟で周りには誰もいなかった。夢特有のシュールな世界と言えばそうなのだけれど、変にリアルな空気感をまとっていたため、謎の不安感にユウタスの心は重くなるばかりだった。


「ここは……どこだ?」


 誰もいない廃墟を彼は出口を求めて歩き続ける。れきのかけらや岩や石があちこちの転がっていて、歩き辛い道をつまずかないように慎重に足元を見ながら進んでいた。かと思うと、次の瞬間、いきなり場面は変わって十字架にユウタスはくくりつけられてしまう。

 全く身動きの取れない中、彼の背後から謎の気配が重くのしかかってきて――。


「わああっ!」


 その圧に耐えきれなかったユウタスは、ここで目を覚まして起き上がった。体は寝汗でびっしょりと濡れている。


「うう……なんて夢だ……」


 少しでも休息を取って体力を回復させるつもりだった昼寝も、悪夢のせいで逆効果。彼はフラフラと起き上がると、シャワー室に駆け込む。

 こうしてとりあえず汗は洗い流したものの、体の調子は戻らないまま3回戦に挑む事となってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る