第89話 ユウタス対トルス 後編
「あのトルスってのも中々だな……あ、いや、ですね」
「あの2人はずっとライバルだったから。今でもどっちかが強いって言えないのかも」
「そ、そうなんですか。すごい……」
試合に夢中になるあまり地が少し出てしまったアレサは、口数が急に少なくなる。カナも、そんな彼女の様子に気付かないくらい試合の行く末を見守っていた。
アコはステージで繰り広げられる一進一退の攻防を見ながら、どうすればユウタスが勝てるかのシミュレーションを頭の中で展開させている。
そんな感じで、3人はそれぞれの楽しみ方をしながらこの試合を観戦していた。
ステージ上では小手先の技術の見せ合いも終わり、残るは大技をどちらが大き相手に叩き込むかと言う段階に入る。ここまで来ると、先手が有利とか後手が有利とか、そんなレベルを遥かに超えた知的戦略が求められる。
とは言え、格闘戦なので近付かなければ攻撃は当たらない。現時点でどちらも自分の攻撃の間合い外に離れていた2人は、接近するタイミングを見計らっていた。
「へいへへーい、ビビってんのかぁ?」
「トルス、挑発が安っぽすぎるぜ」
「なっ……」
ユウタスの言葉でスイッチが入ったのか、ここでトルスが突進する。ユウタスはこれで決めようと拳に力を込めた。そうして、攻撃の間合いに入る事を読んで技を放つ。
「轟雷拳、
「何ィッ!」
天空人特有の神気を込めた拳で床を殴ると、その瞬間にバキバキと亀裂が入っていく。この攻撃を想定していなかったトルスは足を取られ、バランスを崩してしまった。
そこを狙って、ユウタスがトドメとばかりに大技の構えを取りながら一瞬で距離を詰める。
「拳神炎舞!」
「馬鹿めっ!」
そう、トルスはこの展開を読んでいたのだ。ユウタスの拳が届く瞬間、彼はひらりとまるで重力をなくしたみたいに優雅に攻撃を避けると、同時に死角に回り込む。
そうして、反撃とばかりに背後から彼の体を掴み、放り投げた。
「何っ!」
「いくぜえっ!」
勿論ユウタスも天空人なので、空中に浮かされても準備が出来ていれば背中の羽で飛ぶ事が出来る。ただ、トルスに飛ばされると言う事態が予想外だったために、すぐに飛行する事が出来なかった。
そこで生まれた僅かな隙こそが、トルスの狙いだったのだ。
「食らえ! 激神波状拳!」
「うぐおわらぁーっ!」
ここでトルスの放った技は、羽を使った急上昇アッパー。当然、ただのアッパーではなく上昇しながらの速攻連打だ。何十発の打撃をほぼ無防備で受け続け、ユウタスは呆気なく吹っ飛んだ。
観客達はこの見事なカウンターの成功に沸きに沸いた。攻撃の読み合いに勝利した英雄に惜しみない拍手と歓声が送られる。
トルスは、その声援にガッツポーズで応えていた。
「ユウタス、負けちゃったの?」
「いや、あいつがあの程度で負けるはずが……」
「でも、かなりのダメージを負っているはず」
観覧席の3人がお通夜モードになる中、勝利を確信したトルスは、床に強く打ち付けられてそのダメージで動かなくなったユウタスに近付いていく。
完全に戦意を喪失したと確認が出来て、ようやく試合の勝敗が決するからだ。
「ユウタス、お前も結構強かったけど、俺の方が鍛えていたな……」
「ふは……そうだなっ!」
トルスが覗き込むそのタイミングで、ユウタスは起き上がり、その勢いで殴りかかる。トルスはこの不意打ちを何とかかわすものの、バランスを崩してしまった。
「おま、演技かよっ!」
「今度は俺の番だぜっ! 連撃轟雷拳!」
この防御の取れないタイミングを読んで、ユウタスはトルスに向かって連打を浴びせる。今度こそ攻撃が見事にヒットして、次に吹っ飛んだのはトルスの方だった。
「ぐほおおおーっ!」
結局、この攻撃が決定打となり、試合はユウタスの勝利となった。この見事な逆転劇に、観覧席から割れんばかりの声援と拍手の嵐。
けれど、流石に力をほぼ使い果たしたのか、この応援に応えられる余力は彼にはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます