第88話 ユウタス対トルス 前編

 その頃、ユウタスは選手控え室で壁に貼られたトーナメント表を眺めていた。そこにトルスが近付いてくる。


「よう、さっきの試合、余裕で勝ちやがったな」

「おう。お前こそ余裕だったじゃんか」

「次の試合に体力残しとかなきゃだからなぁ」


 彼はそう言うとユウタスに顔を近付けてくる。そう、次のユウタスの対戦相手こそ、目の前のトルスなのだ。今までにも何度も手合わせして勝ったり負けたりの因縁の2人は、しばらくの間お互いににらみ合っていた。


「次の試合できっちり勝敗をつけようぜ、なぁユウタス」

「ああ、完膚なきまでに叩き潰してやんよ?」

「ああ? それはこっちのセリフだぜ」


 その態度から言って、トルスにもこの試合に勝つ秘策が何かあるようだ。ユウタスは、どんな攻撃が来ても対処出来るように頭の中でシミュレーションを繰り返す。そうしている間に2回戦の試合も進んでいき、ユウタス達の番も回ってきた。

 ここで、司会の人が声を張り上げる。


「さあ、次の試合は若手選手同士の因縁の対決だぁー! ユウタス対トルス! 今日はどちらが勝つのか目を離せないぞぉー!」


 お目当ての試合が始まると言う事で、観覧席のアレサ達のテンションも上がった。


「ユウタス、負けるなー!」

「ファイトー!」

「2人共頑張れー!」


 トルスとも縁のあるカナだけは2人に向けて声援を送る。そうして、試合は始まった。


「ユウタス、決着をつけようぜ!」

「ああ、精一杯ぶつかってこい!」


 因縁の2人の対決、まず最初に動いたのはトルスだった。体を低くしてからのタックル。獰猛な獣のようなその突進にユウタスは一瞬気を取られるものの、紙一重でその攻撃をかわし体勢を整える。

 スピードが付きすぎてすぐに止まれなかったトルスがステージから落ちる一歩手前でようやく停止して振り返ったその時、既にユウタスが追撃しようと彼の目前に迫っていた。


「一撃必殺! 雷轟らいごう!」

「くううっ!」


 ユウタスの一撃もまた、一瞬で見切ったトルスに両腕ガードされて威力が半減。腕の痛みを堪えながら彼はニヤリと笑う。


「やるじゃねーか」

「お前こそなっ!」


 余裕を見せるトルスはしかし、防御の型を取っていたために、すぐに攻撃に移れない。そのチャンスに、ユウタスは怒涛の連続パンチを繰り出した。

 1発、2発、5発、10発……速攻で蹴りをつけようと猛ラッシュは続く。


「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「うぐぐ……」


 しかし、そうなる事を読んでいたトルスもまた、この攻撃で受けるダメージを最小限に抑えつつ、ユウタスが消耗するのを待っていた。いくら鍛えているとは言え、流石に無限に力が湧いてくると言うものではない。

 この持久戦においては攻撃側の方が分が悪い。堅牢な防御が破れないまま、徐々にユウタスの攻撃ペースが落ちていく。そうして、疲れが拳を繰り出す勢いを一瞬そいでしまった。


「くうっ……」

「隙ありゃーッ!」


 それを狙っていたトルスは、ここでカンターパンチを繰り出す。結果はクロスカウンターとなり、お互いの拳がお互いの顔面を潰しあい、ダブルノックダウン。


「い、いいもん持ってんじゃねーか」

「へっ、お互いにな」


 お互いに相手の実力を認め合った後、2人はすぐに起き上がるとバックステップして距離を取る。今のところ、実力は五分五分と言ったところだろう。その後も技の読み合いと返し合い、かわし合いが続き、その高度な戦闘に会場内は一気に静かになった。

 当然、観覧席の3人も試合に集中している。

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