第87話 武闘大会、開始

「じゃあ、後はカナ、頼む」

「うん、頑張ってね」


 彼女に地上からのお客さんを任せ、ユウタスは出場者受付の方に歩いていった。彼が見えなくなったところで、カナは2人に向き合って笑顔を見せる。


「話はユウタスから聞いてます。ようこそ天空島へ」

「こちらこそよろしくです」

「よよよ、よろしくお願いしまーす」

「じゃ、行きましょっか。ついてきて」


 3人はそれぞれがよそ行きの心の仮面をかぶり、行動を共にする。カナは会場の案内をして、地上組の2人はグッズや軽食を買ったりと楽しんだ。


 大会の予選はメインのステージでは行われないので、中継水晶で見るか、先にメインの観覧席でいい席を確保するかの二択に迫られる。予約席を買っているなら焦っていい席を闘う必要もないものの、3人共自由席のチケットしか持っていなかったので、必然的に後者の先にいい席を狙う流れとなっていた。

 メインステージに向かいながら、カナは独り言のようにつぶやく。


「ユウタスなら予選余裕だから、わざわざ応援する必要もないと思うんだよね」

「あ、それ私も思います。優勝しろって発破かけときました」

「はは、アレサさん、聞いた通りの性格ですね」

「え? あいつどんな事言ってました?」


 カナとアレサが盛り上がる中、アコも黙って2人についていく。観覧席に出ると、流石に早かったからか埋まっている席はまばらだったので、3人は割とベストな席に座る事が出来た。


「いい席が空いていて良かったよね」

「カナ、第1試合はいつから?」

「えーっと……大体、1時間後かな。ちょっと早くに来すぎたかも」


 アレサに聞かれて時間を確認したカナは2人に向かって困り顔を見せる。アレサは長い待ち時間をどうやって潰すかと考え、ポンと手を打った。


「それじゃあ、それまで色々話しましょ。ユウタスの子供の頃の話とか聞かせてよ」

「あ、私もその話、聞きたいです」

「うーん、じゃあ、あれはあいつが5歳の頃の話なんだけど……」


 アレサに続いてアコからもリクエストされた事もあって、カナは自分の覚えているユウタスの話を語り始める。地上組の2人は初めて聞く彼の幼い頃の話を興味深そうにうなずきながら聞き、そこからは話があっちこっちに飛びながら楽しい会話は続いたのだった。



 女子3人の話が盛り上がる中、空いていた座席もどんどん埋まっていく。気がつけば一時間はあっと言う間に過ぎていたようだ。

 目の前の試合会場では予選を勝ち抜いた選手達が並んで開会の宣誓をしたり、ちょっとしたパフォーマンスなどが行われている。それらのイベントが終わると、待望の一回戦が始まった。


 流石に最初のバトルだけあって勝敗はサクサクと簡単に終わる試合が多い。この初めて見る武闘会に、地上組は目を輝かせる。


「武闘会ではこんな戦いを繰り広げてるんだ。面白いな」

「すごいですね、皆さん」

「まぁ、みんなこの大会に向けて鍛えてるからねー」


 一回戦は試合数も多いものの、ひと試合が短いので割とすぐにユウタスの試合の番が回ってきた。他の試合の時は割とクールぶっていたカナも、彼の試合になると一気にテンションを上げる。


「ユウタスー! 頑張れー!」

「負けるなー!」

「ファ、ファイトですー!」


 ユウタスの一回戦の相手は細マッチョな感じの武闘家。試合開始と同時に動いたのは相手側の方だった。その動きを冷静に見定めて、殴りかかってきたところをカウンターの一撃で見事に決めて相手は豪快に床に沈む。

 こうして、彼は一回戦を余裕で突破したのだった。


「ユウタスー!」

「やるじゃねーかー!」

「お、おめでとうございますー!」


 女子3人の声援を聞いて、ユウタスのはその方向に顔を向けるとビシッと決め笑顔でサムズアップ。次の試合もあるのですぐにはけていった。

 視界から彼が消えたところで、カナは興奮しながら2人の方に顔を向ける。


「ユウタス、また強くなってた。やっぱり地上の冒険のおかげ?」

「かも。色々あったからなぁ」

「ユウタスがいなかったら私、死んでました」

「えっ、どう言う事? 聞かせて聞かせて」


 アコの言葉にカナは目をキラキラと輝かせながら身を乗り出してきた。その勢いに若干引きながら、アコはその当時のエピソードを身振り手振りを加えながら説明する。


「へぇ、あいつも色んな経験をしてきてるんだねぇ」

「やっぱり羽があっても飛ぶのはしんどいんですか?」

「使う筋肉が違うからね。自在に飛ぶのはよっぽど訓練しないとだよ」


 カナの天空人談義に今度はアコの方が目を輝かせていた。その後も3人は試合よりも雑談に夢中になる。

 会場の方では淡々と試合が続いていき、気が付くと第1試合は全て終わっていた。

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