第86話 舞台は天空島へ

 仲間に別れを告げたユウタスはその足で転送陣に向かい、手続きを済ませると天空島へと戻る。久しぶりに戻った故郷は、地上へと旅立った頃と変わらない姿を見せている。

 懐かしさで胸が一杯になった彼は、故郷の空気を思いっきり吸い込んだ。


「はあぁ~。変わらないな。よし、行くか」


 自宅に戻ったユウタスは修行着に着替え、大会に向けての特訓を始める。まずはロードワークだと島の周りを走っていると、そこで見慣れた顔に遭遇した。


「ユウタス、戻ってきたのか」

「トルス、早いな」

「俺は2週間前からこっちに戻って体を慣らしてたんだ。勝ったなガハハ」

「抜かせ!」


 旧友との出会いにユウタスの顔はほころぶ。そうして、昔みたいなやり取りをしながら挑発しあった。


「今度こそは俺が勝つ! 首を洗って待ってやがれ!」

「はん、返り討ちにしてやんよ!」


 2人は軽くにらみ合うと、お互いに別の場所へと去っていく。大会が近付いている今、どう言う技を磨くかは試合に関係するために企業秘密だ。なので、必然的に出場選手は孤独な秘密主義者になる。

 ユウタスもトルスもこの大会に真剣に臨んでいる。だからこそ、お互いに手の内は見せられないのだった。


「あいつも頑張ってんな……よし!」


 今回ユウタスの狙う大会は小さな規模の地方大会ではなく、年に数回の全国大会。地方大会ではそろそろ優勝に手の届くくらいの実力のユウタスも、この全国大会では準決勝に残るかどうかも怪しいレベルだ。と言う訳で、その技の研鑽にも一層力が入る事になる。


 しかも、今度は地上で出来た仲間が見に来るのだから余計に無様な試合は見せられない。このプレッシャーが、いい感じにユウタスの心に気合を入れさせていた。

 その意気込みは周りにも伝わったらしく、師匠である彼の父親の指導にも熱が入る。


「どうした、少し力みすぎているぞ。もっと力を抜くんだ」

「はい、師匠!」

「うむ、地上で鍛えられたみたいだな。ではそんなお前に新たな技を伝えよう」

「お、お願いします!」


 こうして父親から新たな技も教わり、大会までの期間はその技を完璧にマスターする事に費やされた。他にも新たな呼吸方法、新たな足さばき、それらを組み合わせた新たな戦略など、様々な技術を叩き込まれ、ユウタスの剣闘士としてのレベルもぐんぐんと完成度を高めていく。

 やがて、それらをマスターしたと言う手応えを掴むまでになった彼は、かいた汗をタオルで拭いながら大会での勝利を確信するのだった。


「よし、これで勝てる! 初優勝は頂きだぜ!」


 大会当日もいい天気で始まった。空に浮かんでいるので、基本的に晴れているのだけれど。この日は冒険仲間が見に来ると言う事で、ユウタスは早朝から観光用転送陣に迎えに行く。


 彼が普段使っている地元民用のそれとは違って、観光用転送陣は地上からの観光客を迎えるための施設で、利便性がしっかり確保されていた。具体的に言えば、丁寧な接客対応と観光案内的な各種コーナーの充実。

 それなりの利用料もかかるものの、安心安全に旅が出来るようになっている。


 ユウタスが2人を迎えに行くと、丁度地上からの転送が終わった直後だった。当然お客さんは2人だけじゃなくて、何百人もの観光客がぞろぞろと天空島を楽しもうと賑やかに歩いていくる。

 彼は仲間の女子2人組を見逃さないようにと、真剣に出口から出てくる人々を凝視していた。


「お、いたいた。おーい!」


 見慣れたシルエットが目に入ったと同時に、ユウタスは大きく手を振って自分の存在をアピール。他にそんな奇抜な動きをする人もいなかったため、天空島が初めての2人も容易に彼を見つける事が出来た。


「おー! 来たぞ」

「ちゃんと来てくれて良かったよ」

「そりゃ来るってば」


 アレサがにこにこ顔で拳を突き出してきたので、ユウタスもそれに合わせて拳を突き合わせる。そんな息の合った2人の背後でアコがひょこっと顔を覗かせた。


「お、おはようございます。今日は頑張ってくださいね」

「負けんじゃねーぞ」

「ああ、任せとけ!」


 こうして合流した3人は、そのまま施設を抜けて真っ直ぐに闘技大会の会場へと向かう。今回の2人はお客さん扱いなのでトレーニングがてらにランニングで向かうと言う事も出来ず、馬車を使っての移動となった。

 約1時間の移動時間の間、車内では女子2人がバカンスの時の自身の武勇伝とかを一方的に喋りまくる。その間、ユウタスはずっと聞き役になって、たまに来る天空島に関する質問とかにぽつりぽつりと答えるのみだった。


 楽しい会話は時間間隔を短縮させ、1時間はあっと言う間に過ぎていく。会場に着いたところで出場者と観光客は別行動。

 と、その前に、丁度その時間に会場に来ていたカナと合流する。

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