第84話 海の主の最期

「うう、今から花火も上がるのに……」

「一気に主を倒して戻ってこようぜ。きっと間に合うって」

「ですね! ぱぱっと片付けちゃいましょう!」


 2人は移動しながら戦闘準備を整え、それぞれの武器を手にして主の現れた場所へと急ぐ。すっかり夜も更けて、暗い浜辺を月の光が白く淡く照らしていた。

 海を監視している係のおっちゃんのところに辿り着いてすぐに、アレサは現状を確認する。


「お待たせ、ヤツはどこ?」

「あ、あそこに……」


 おっちゃんが震えながら指差した先に、白い光に照らされて神秘的な光を放つショッキングピンクのイソギンが浮かび上がる。標的を確認した瞬間にアレサは持参してきていた魔法粘液の詰まった小瓶を投げつけた。

 放物線を描きながらイソギンの頭上にまで飛んだ小瓶は、それを敵認定したピンクの触手によって見事に破壊される。結果、海の主は瓶に満たされていた魔法粘液を全身に浴びる事になった。

 作戦がうまくいったのを確認して、アレサはニヤリと笑みを浮かべる。


「よし、行くぞ!」

「援護します!」


 突っ込むアレサを狙うように、海の主の無数の触手が一斉に襲いかかる。そこに粘液加工したアコの矢が次々に突き刺さり、主はそこで生じた痛みにグネグネとのたうち回り始めた。

 自分の攻撃にしっかり手応えを感じたアコは、ここで得意げにガッツポーズ。


「矢が通りました!」

「よし、後は任せろっ!」


 彼女の援護のおかげで十分に距離を詰める事に成功したアレサは、一気に蹴りをつけようと自慢の剣技を披露する。


「剣技! 神速夢幻斬!」


 それは目にも止まらないほどの速さで敵を斬り刻む奥義のひとつ。魔法粘液を浴びた上に同じ粘液を塗り込んだ究極の剣技の攻撃を受け、海の主は反撃する暇も与えられないまま、呆気ないくらい簡単にその命を天に返した。

 イソギンだった残骸が次々に海に沈んでいく中、無事に目的を果たしたアレサもまた当然のようにガッツポーズを決める。


「楽勝っ!」

「さっすがアレサ!」


 こうしてハロワンビーチに平和が戻った。2人は花火を見るために戦闘で汚れた体を洗い流して新しい服に着替える。そうしてホクホク顔でパーティー会場に戻るものの、後一歩及ばず、花火は丁度全て打ち上げ終わった後だった。

 当然、この結果に2人がガックリと肩を落としたのは言うまでもない。


「そ、そんなぁ……」

「ま、また来年来ましょう……」


 翌日、厄介な海の主の退治に成功したと言う事で協会長からたっぷりの報酬を受け取った2人は、お互いに顔を見合わせて笑い合う。

 これで心身共に完全にバカンスモードになった2人は、更にハロワンビーチを楽しんだのだった。


「バカンスは最高だぜーっ!」

「ですねっ!」

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