第83話 ボスを待つ間に

 目的を果たし、ハロワンビーチに戻った2人は早速準備を整える。まずは、灰色イソギンの魔法粘液を投げやすい小瓶に詰めて魔法の栓をした。後、アレサはその粘液を剣に塗り、直接攻撃を可能にさせる。

 その工程を目にしたアコは、自分も真似しようと自前の矢じりにも粘液を塗り込むのだった。


「これでもうあいつは敵じゃねーな」

「ですね」


 後はピンクの巨大イソギンの出現を待つばかり。こればかりは相手次第なので根気良く待つしかなかった。協会長によると、一度姿を消してからは二度と海の主は現れてはいないらしい。なので魔物避けの結界に工夫をしてもらい、特定の場所に穴が出来るようにお願いした。

 そうする事で主を誘い出し、そこで向かい撃つと言う作戦だ。ここまで話を聞いた協会長は、少し困った表情を浮かべる。


「でも、今度こそは大丈夫なのかい?」

「任せてください! 対策はバッチリです!」

「今度こそ私達があの主を倒してご覧に入れます!」

「なら……。分かった、頼んだよ!」


 こうして全ての下準備は整い、持久戦が始まった。初日に主が現れると言うラッキーな事もなく、徹夜した2人は眠気に負けてその場に倒れ込む。主が現れたら起こしてと言う伝言を残して。

 その後、この方式が気に入った2人は見張り役の人に見張りを任せてバカンスを楽しむ事に――。


「ずーっと緊張しながら敵を待つって、いざ戦闘になった時にこっちが不利になるもんな」

「ですね。あ、あのお店のスイーツ、食べましょう」

「いいね、行くか!」


 流石に武装は外せないため、海で泳ぐのはNG。よって、観光地ならではの個性豊かなお店を2人は堪能しまくった。地元の名物やら流行のスイーツ。個性的なお土産、遊園地、名所観光とハロワンビーチを隅から隅まで存分に楽しんでいく。


「ふう、かなり遊んだな」

「流石にここまで遊ぶと腕がなまっちゃわないか心配になります」

「休みだからいーんだよ!」

「ですねっ!」


 昼も夜もハイテンションで2人は遊び続けた。そんなある日、夜の浜辺でパーティーがあると言うので、当然2人もそれに参加する流れに。パーティっぽく軽く洒落た服装で軽食を楽しんだりダンスをしたりと楽しい時間は過ぎていく。

 やがて、このパーティーのメインイベントの年に一度の大花火大会が始まる時間がやってきた。


 ハロワンビーチの花火大会は特に有名で、大小様々な花火が数万発も上がると言う大陸でも有数のイベントだ。アレサ達も花火の上がる海の方角に体を向けて、今か今かとその時を待ちわびる。

 そんな時に、海の主警戒隊の呼び出し係のおっちゃんが息を切らしながら駆け込んできた。


「冒険者のアレサ様、アコ様!」

「えっ? 今から花火なんだけど……」

「あの、花火が終わってからじゃダメですか?」

「ダメです! すぐに来てください!」


 いざ花火が打ち上がり始めると言う、その絶妙なタイミングで呼ばれてしまい、2人は頬を膨らませながら駄々をこねる。当然その訴えが聞き入れらるはずもなく、アレサ達は泣く泣く花火をあきらめざるを得なかった。

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