第82話 お宝、ゲットだぜ!

 灰色イソギンとアレサ、お互いに牽制し合いながらこのにらみ合いはしばらく続く。このバトル、集中力が最後まで持った方が勝ちになるのだろう。お互いに攻撃のタイミングを図る中、先に動いたのはイソギンの方だった。

 アレサの集中力の途切れた瞬間を見逃さず、そのタイミングで毒液を連続で吐き出す。


「うわああっ!」


 アレサはこれ以上服を溶かされてはたまらないと、ほぼ反射的にバックステップを踏んで毒液の回避に成功。そのまま毒液の射程範囲外にまで距離を取る。

 逆に、イソギンは自分を切り刻もうとする敵を二度と近付けさせまいと毒液を吐き出しまくり、毒液バリヤーを形成した。


「くそっ……」


 アレサはうかつに動けなくなり、ツバをゴクリと飲み込む。十分に距離は取っているものの、たまに毒液の飛沫が体に当たり、少しずつ服は溶かされていく。

 こう言う持久戦の場合、本来なら毒液を吐くイソギンが疲れるのを待ってから攻撃が一番正しいのだけれど、それをすると服の布面積がとても心配になってしまう。既に彼女のズボンは派手なダメージジーンズのようにボロボロになり、上半身も体を隠せているのがギリギリの過激ファッションと化していた。


「ううっ……厄介だな」


 毒液攻撃は生物が吐き出すために、一定のリズムが存在し、必ずしも鉄壁の防御ではない。アレサは意識を集中してその攻撃の穴を慎重に見計らった。イソギンの方はアレサが近付かないので調子に乗り、その毒液自体で倒そうとジリジリと近付いてくる。

 彼女は毒液を吐くリズムに意識を同調させ、慎重にタイミングを合わせた。


「今だ!」


 アレサはしっかりタイミングを合わせ、毒液が吐き止む瞬間に一気に距離を詰める。この急接近に動揺したイソギンはすぐに毒液を吐き出そうとするものの、そこで彼女は素早く位置をずらしてイソギンに毒液を無駄吐きさせる。

 焦ったイソギンは攻撃を触手に切り替え、直接攻撃をしようとアレサを狙った。


「剣技! 水神剣・五月雨!」


 彼女の剣技が一瞬早くイソギンの体を斬り刻む。為すすべもなく千切りにされたイソギンチャクの化け物は、アレサの体をボロボロにしただけでその生涯を終えた。

 こうして洞窟のボスを倒したアレサは、大きく息を吐き出すと剣を鞘に収める。


「ふぅ、手強かったぜ……」


 ボスを倒した事で部屋の仕掛けはまた動き出し、入ってきた通路と一番奥の扉が開く。すぐに戻る選択肢もあったものの、彼女は迷いなく開放された奥の扉の先へと向かった。ボスを倒した後はご褒美と対面と言うのがセオリーだからだ。

 今回の場合のご褒美と言えば、目的の魔法粘液の入った瓶。アレサはお宝を手に入れたイメージを思い浮かべ、頬を緩ませる。


「へへ……楽しみだぜ」


 ニヤニヤしながら奥の部屋に入った彼女は、そこで意外な人物と再開する。見覚えのあるシルエットを目にして先に相手の存在に気付いたのは、部屋にいたその人影の方だった。


「アレサ? アレサなの?」

「アコ? 何でこんな所に?」

「良かったー!」


 この再会に動揺して硬直するアレサに向かって、アコは勢い良く抱きついた。突然力強く抱擁されて、アレサは思わず頬を染める。


「な、何でこの部屋にいるんだよ! 探したんだぞ!」

「ごめんなさい、迷っていたらいつの間にか……」

「何だよそれ、相変わらずハンパねーなぁ」


 安心した2人はこの場所で出会えた奇跡を実感して笑い合った。その後、落ち着いたところでアレサはアコを離し、お互いの情報交換をする。目的の対海の主用のアイテムもゲットし、ついでに他のめぼしい財宝も手に入れた一行は満足してこの洞窟を後にする。帰りはしっかり手をつないでいたので、アコもはぐれる事はなかった。

 無事に外に出た2人は、潮風の気配を思いっきり吸い込んで背伸びをする。


「ふーっ。やっぱ外の空気は美味しいぜ」

「色々あったけど、これで海の主を倒せますね!」

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