第80話 楽しい洞窟探検

「さて、後少しだな」

「ちゃんとお宝があればいいんですけどね」

「いや、あるって。俺の勘がそう叫んでる」

「じゃあ、洞窟を探しましょう」


 島は不自然なほどに静まり返っていて、動物の気配は何もなかった。聞こえてくるのは波の音と2人が歩く足音だけ。突然のモンスターの襲来に警戒しながら島の周りを探索していると、やがて人工的に作られたっぽい不自然な裂け目を発見する。どうやらその先はずうっと奥に続いているようだ。

 この不審な穴を発見した2人は、同時に顔を見合わせる。


「ここ、怪しいよな」

「じゃあ、入りましょう」

「迷うなよ」

「ま、任しといてくださいよっ!」


 アレサの忠告にアコはドンと胸を叩くものの、目は不自然に泳いでいた。多少の不安を抱えつつも、こうして島の洞窟探索は始まる。松明の炎を頼りに、2人はマップもない洞窟を不安と格闘しながら進んでいくのだった。

 視界の悪い中を慎重に進みながら、気晴らしにアレサは独り言にようにつぶやく。


「なぁ、松明以外で何か魔法のアイテムとか明るくる呪文とかさ、そう言うのは……」


 彼女はそこで背後にいるはずのアコの反応が全くない事に気付く。ヤバいものを感じた彼女が急いで振り返ると、案の定、後ろを歩いていたはずの相棒の姿が見当たらない。

 いつからはぐれたのか全く見当がつかないまま、取り敢えずアレサは大声を洞窟内に響かせる。


「アコー! いきなり迷ってんじゃないぞー!」


 その声は洞窟内を反響するものの、どれだけ待っても返事が返ってくる事はなかった。彼女は腕を組んでしばらくどうするか考えたものの、仕方なく来た道を戻りながらアコを探し始める。

 そもそもこの洞窟は海賊がお宝を隠した場所、罠とか秘密の通路が隠されていても全く不思議ではないのだ。


「ったく、どうやったらそんな簡単に迷えるんだよ……」


 アレサはブツブツと独り言をつぶやきながら、洞窟の壁を触って確認しながら歩いていく。すると、突然別の道が現れた。やはりこの洞窟の探索は一筋縄では行かないらしい。

 別の道が現れた事で複雑な迷路になっている事が判明し、彼女は自分の頬を両手で叩く。


「へっ、やっぱただの洞窟じゃないってか。そりゃアコも迷って当然かもな……」


 松明を持った剣士はゴクリとつばを飲み込むと、はぐれた仲間と合流するためにこの謎のダンジョンの奥深くに潜っていくのだった。



 一方その頃、ふとしたはずみで洞窟の裏通路に迷い込んでしまったアコは、自分の直感だけを頼りにぐるぐると洞窟内を彷徨い歩いていた。幸いな事に、命を奪うような悪質な罠はこの洞窟には配置されていないようで、彼女はその天然の彷徨スキルを活かしまくる。


「アレサー! 私はここだよー! おーい!」


 自分が相棒と別れて大変な事になっているとアコが気付いたのは、アレサとはぐれた直後ではなかった。すぐに大声を出していればきっと合流も容易だったのだろうけれど、お互いに大声を出しても聞こえない距離にまで離れたところでやっとその事に気付いたのだ。当然、その声はお互いに届かない。


 アレサはアコを探すために来た道を戻り始めたのだけれど、アコの場合は同じ事をしたところで迷ってすれ違うだけと判断。遭難時はその場を動かない事が鉄則ではあるのだけれど、彼女は動かなかったら一生合流出来ないと動く事を選択。

 結果として洞窟の隠し通路を発見したり、いくつもある分かれ道に遭遇して好きな道を選んだりして、更に洞窟の奥へ奥へと進んでしまうのだった。


「この洞窟、やっぱ変だ。こんなに迷うように作られているって事は、お宝が本当にあるに違いないよ」


 迷いながら、アコはこのダンジョンを作った製作者の癖を感覚で分かるようになってくる。そうして、その感覚を信じて進んだ先で、宝物庫のような場所に辿り着いた。そこには棚にきちんと様々なお宝が整理されてまとめられているのが見てとれる。この洞窟を宝物庫にした海賊は相当に律儀な性格だったのだろう。

 そのお宝は定番通りの金銀財宝ばかりだったものの、伝説を信じていた彼女はひたすら魔法粘液の入った瓶を探した。


「えーっと、灰色イソギンの粘液瓶はどこ……あ、これかな?」


 宝物棚を丹念に探していたアコは、ついにそれらしき瓶を発見。すぐに棚から抜き出した。その瞬間、何らかの仕組みが発動し、入って来た入り口がしっかり閉まってしまう。当然、この罠の発動に彼女は顔を青ざめさせた。

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