第75話 観光協会からの依頼
水着を手渡されたアコはその場でしっかり装着。また別のモンスターに襲われる前にと、2人は急いで浜辺に戻った。ここで力の限り泳いだのもあって、2人共かなりの体力を消耗させてしまっていた。
海から上がってしばらく浜辺を歩いていたところで、アコのお腹がぐぅ~っとなってしまう。彼女は恥ずかしくなって思わずアレサの顔を見る。
「そ、そろそろご飯にしよっか」
「……うーん」
彼女からの質問に答えようとしたところで、アレサのお腹もぐぅ~っとなってしまう。まるで代わりに返事をしたみたいな流れになって、2人は顔を見合わせた。
「てへへ」
「あはは」
とにかく、こうして意見は一致したと言う事で、2人はランチをとる事にする。となると、今度はどのお店で食べるかと言う事で2人は頭を悩ませた。何しろハロワンビーチは一大観光地。食事の出来るお店も悩む程の数が存在していたのだ。
10や20どころじゃない店の数。2人は意見を戦わせて、自分達に一番好みが合いそうなお店を吟味していく。ここで、ビーチのガイドブックを片手にアレサが途方に暮れた。
「こんな事なら、最初からもっと色々と決めておけば良かったな」
「初めて来たから、決めていても目移りしちゃったかもですよ?」
「うーん……」
その後も悩みに悩み、2人は相談しながら候補を少しずつ絞っていく。やがて、行ってみたいお店の数が10になり、5になり――悩み始めて1時間近く経ってようやく2人の好みに一番合うお店を絞り込む事に成功。それはビーチを一望出来るオシャレな海辺のレストラン。メニューも美味しそうで、2人は溢れる期待を胸に歩き始めた。
その店の前まで来たところで、アレサはくるっと振り返ってアコの顔を見る。
「やっぱバカンスだから、普段入らないような店で食べなきゃだろ」
「ですね」
こうして、2人はおしゃれでリッチなランチを楽しむ事になった。レストランは洒落た雰囲気で、メニューを見てもこう言う場所に不慣れな2人は何を食べていいかさっぱり分からない。
結局2人はその事を素直に話して、お店のオススメのものを頼む事にした。
「おまかせランチってメニューがあって良かったぜ」
「あれって、私達みたいなののためにあるのかな?」
「かもな!」
2人がそう言って笑っていると、まずスープが運ばれてきた。ビーチの素晴らしい景色を眺めながら、それぞれのペースでスープを口に運ぶ。お皿が空になる頃にはメインのランチが運ばれてくる。海辺のレストランらしく、それは魚介類がたくさん入った料理だった。
魚を炒めたもの、揚げたもの、煮たもの、それに飲み物とパン。どれも2人にとっては初めて食べるもので、とても美味しく、自然に顔が笑顔になっていく。
「うんまうんま」
「最高ですね!」
2人がレストランの食事に夢中になる中、そんな彼女達に誰かが近付いてくる。レストランにあるまじき異質な気配を感じ取り、アレサはその方向に顔を向ける。
「今食事中なんだけど……」
「す、すみません! そのままでいいので話だけでも」
「一体何の用なのですか?」
「あの、お2人の強さを見ておりました……」
2人に近付いてきたのは小綺麗な格好をした小太りの中年男性。その顔は切羽詰まったような真剣な表情だ。男性はさっきの2人の沖でのやり取りを見て、話をしようと近付いてきたらしい。
その動機にお金の匂いを嗅ぎ取ったアレサは、俄然目を輝かせる。
「つまり、魔物を倒して欲しいと?」
「話が早い! お願い出来ますか!」
「私達、タダじゃあ動きませんよ。プロですから」
「勿論です。あなた方を一流の冒険者と見込んでお願いします! 報酬もお支払いします!」
中年男性はこのビーチを管理する観光協会の代表者だった。さっき沖でモンスターを倒した手際から、2人に依頼をしに来たようだ。
「最近、この海にとんでもないモンスターが現れるようになったんです。今はモンスター避けの魔法が効いていますが、それもいつまで持つか……。このままだとビーチに人が来なくなってしまいます」
「分かりました。私達に任せてください!」
一大観光地の責任者からの直の依頼。これはかなりの報酬が見込めると、アレサはこの仕事を秒で承諾する。
あまりに即決だったため、隣で事の成り行きを見守っていたアコは目を丸くした。
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