第74話 触手の攻撃!
「キャーッ!」
魔物の触手がアコの水着を剥ぎ取る。どう言う原理か分からないけれど、スポーンと簡単に彼女の控えめ気味な胸を隠していた布切れは剥ぎ取られてしまった。
魔力が塗布され、簡易ライフジャケット的な機能も併せ持っていたその水着は、海の底に沈む事なく、プカプカと浮いて流されていく。この攻撃でようやく魔物の存在を感知した2人は、すぐに次の攻撃に備えて警戒する。
「クソ、何だあの触手は……」
「う、海の魔物ですね。食べるのに水着が邪魔だったのでしょう」
「しかしヤバいな……。俺ら、丸腰だぜ」
「ああ……っ!」
そう、2人共海を楽しむ事だけを考えていたので何の武装もしていなかったのだ。
「だから遠泳は
「んな事言ったって魔物が出るなんて思わないじゃないか」
「どうするんですかこれから」
「とにかく倒せない以上、隙を見て逃げるしか……」
対抗する手段を持ち合わせていない事もあって、2人は神出鬼没の触手からどうにか身を守ろうと周囲を警戒する。2人で背中を合わせて注意を払っていると、海面からニョキッと触手が顔を出した。
最初に出てきたのは1本だったけれど、やがて2本、3本と増えていき、最終的に10本の触手が2人を狙って少しずつ距離を詰めてくる。
緊張感の高まる中、様子見なのかゆっくりと近付いていた触手は、ある程度近付いたところで攻撃されないと踏んだのか、一気にその動きを加速させる。
そうして、格好の獲物を前にして本気で触手が襲ってきた。
「こ、このっ!」
アレサは必死で襲い来る触手を跳ね除けるものの、やはり素手では弾く事しか出来ず、事態は悪化の一途を辿る。当然ながら触手は水中からも狙ってくる訳で、そうなると両手では対処のしようがない。
慣れない海面での攻防は、必然的に女子2人に不利な持久戦となった。ヌルヌルの触手がアコの足を味見するかのようにねろねろと絡みつく。その気持ち悪さに彼女は絶叫した。
「きゃあああっ!」
「だ、大丈夫か!」
「気持ち悪いい~」
「ま、任せろ!」
アコのピンチにアレサは海に潜る。そこには触手の主の顔も見えた。それは体全体が触手になったみたいなグロテスクな魔物。この魔物の本体に攻撃をすれば、このピンチも脱せるかも知れない。
けれど、その攻撃手段を今は持っていないため、アレサはアコの腕に絡みつく触手を外す事だけに集中する。ヌルヌルとしたそれは中々しっかり掴ませようとしない。
やがて、息の続かなくなった彼女は海面に顔を出した。
「ぷはあ! ダメだ、ヌルヌルして掴めない」
「そ、そんな……」
「このままじゃ、俺達が不利になるば……うああっ……」
「アレサ? キャアアアーッ!」
まだ本格攻撃はないと踏んでいた2人の前にいきなり複数の触手が現れ、二人の体にみっしりと絡みついた。その力は強力で、どんどん体力を消耗させてしまう。
まるで、触手からエネルギーを吸い取られているみたいだった。
「く、くそっ……。やめ、変なとこを触るなーっ!」
「く、くぅん。ダメェ……」
体中を舐め回されるような感触を2人は味わい、精神的にもまともではいられなくなってくる。アレサはまだ水着を剥ぎ取られていなかったので最後の一線をかろうじて守れていたものの、いつ触手が彼女を素っ裸にしてしまうか分からない。アコに至っては既に上半身を守るものはない。
触手は、まるでそれが当然にように彼女が必死にガードしている腕を剥がそうとしていた。
「む、胸はやめっ……いやあーっ!」
恥ずかしさがマックスに達したアコは無我夢中で魔法を発動。発生した電撃エネルギーは暴発し、触手は彼女達の体からゆっくりと離れていく。
「はぁ……はぁ……」
「アコ、やったじゃん」
「……え?」
恥ずかしさマックスで無我夢中だったアコは、自分が何をしたのかはっきり把握出来ないでいた。彼女の魔法をもろに食らった触手モンスターは生命活動を停止させ、海の底に沈んでいったっきり。もう二度と浮上する事もないだろう。
こうして謎の触手に襲われる恐怖は去り、アレサはアコに思いっきり抱きついた。
「助かったんだよー! アコのおかげっ」
「え、えっと……そう……なのかな?」
「そうだ、ちょっと待ってて」
「え?」
アコが戸惑っていると、アレサはどこかに向かって泳ぎ始めた。混乱が治まったアコは、胸を隠しながらその場で泳いでいくアレサを見守る。
泳いでは辺りを見回し、泳いでは辺りを見回していたアレサはやがて何かを発見し、それを手にして戻ってきた。
「ほら、アコの水着!」
「あ、有難う!」
「これで帰れるな」
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