第70話 2人だけの旅行計画

「行っちゃいましたね」

「ユウタスにはユウタスの事情があるんだろうから、それをどうこうとも言えないよな」

「ですね」


 こうして女子2人だけになり、アレサは改めてアコの顔を見つめる。


「こうなったら、2人で遊ぶか」

「ですね」


 2人は笑い合うとそのまま楽しく話が出来そうな雰囲気のいいカフェに移動し、今後の予定を話し合った。


「休みの予定と言えばやっぱ旅行だろ」

「いいですねー」

「まずは行き先だよな、アコはどこ行きたい? 山? 海? それとも街の遊技場とか?」

「うーん、悩みますねー。私そのどれもちゃんと遊んだ事ありませんし」


 この会話から、アコはしっかり遊んだ事がない事が判明する。アレサは頼んでいた紅茶を口に含むと、窓の外の街の景色を眺めた。平日の街は仕事をしている人が忙しそうに行き交っている。ご婦人方の姿があまり見えないのは、今の時間、家にいる人が多いからなのだろう。

 アコは頼んでいたパフェを少しずつ掬いながら、その甘味に舌鼓をうっていた。


「初めて食べたんですけど、パフェって美味しいですね!」

「まさか、こう言う店も初めてとか?」

「えっと、このお店は初めてですけど、喫茶店は初めてではないですよ? ただ、ゆっくりこうしてお茶をする機会がなかったもので」

「そっか。まぁ今日はゆっくり話し合おうぜ」


 アレサは色々と察したのか、そこで一呼吸置くと、一気に紅茶を飲み干した。そうしておかわりを注文すると、楽しそうに食べるアコの顔を見つめる。


「決められないなら、勝手に決めていいか? 勿論、リクエストがあったら言ってくれ」

「私じゃ決められませんし、アレサの行きたいところでいいですよ」

「じゃあ、海でいいか? 南の海。きっといい休日になると思うんだけど」

「いいですね、海! 行きましょう!」


 こうして、休日の予定はアレサ主導の南の島バカンスに決定する。ひとつ条件が決まれば後はドミノ的に目的地やそこで何をするか、何を準備するかなどの諸々の条件が次々に決まっていく。

 本格的な遊びのためだけの個人的な旅行が初めてと言うアコのために、アレサはアドバイザーとしてカフェを出た後の買い物に付き合った。おしゃれな洋服や水着、海辺で遊ぶための色々なもの、帽子やサングラスなど、思いつくものを悩みながら購入していく。


 何件もお店を巡って旅行に必要なものを買い終わり、2人は帰路に着いた。その帰り道、興奮して頬を高揚させたアコは満面の笑顔でアレサの顔を覗き込む。


「こう言うのいいですね。ワクワクします」

「じゃあ、依頼完了の度に遊びに行くか!」

「いいですね、今度はユウタスも誘って」

「あいつ、こう言うの好きだといいけど……」


 ユウタスが休みの日に羽目を外す姿を想像した2人は、クスクスと笑いあった。そうして、アコは暗くなっていく空を見上げる。そこには一番星が輝いていた。


「明日、楽しみにしています! 今日は有難うございました」

「ああ、いい休日にしようぜ」


 その後、2人は別れ、それぞれの家に帰っていった。旅行慣れしているアレサはともかく、アコはその日一日を興奮して過ごすのだろう。

 こうしてとっぷりと夜は更け、やがて東の空から新しい朝日が昇ってくる。


 目覚めた2人は、前日に決めていた待ち合わせ場所に向かってそれぞれの家を出た。アコは準備に手間取ったのか、パンを咥えて荷物を背負いながら走っていく。それは待ち合わせ時間の5分前。集合場所の公園へは彼女の家から10分の距離。つまり、必然的に5分の遅刻となった。

 アコが公園に着くと、先に着いていたアレサが手を振って自分の居場所をアピールする。


「おーい、ここだぞー」

「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

「5分くらい誤差の範囲内だよ、行こう」

「楽しい旅にしましょうね!」

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