第69話 きっちり3等分の報酬

「これで報酬は頂きだな」

「ああ、俺達の勝利だ!」

「嬉しいです。タダ働きにならずに済んで」


 何もかもが上手く行き、3人は顔を見合わせて笑い合う。ちょうど森の出口まで来ていたのもあって、1行はそのまま森を抜けて報告のためにギルドへと向かった。戻れば大量の報酬をもらえる事が確定していたためにその足取りはとても軽く、みんな無意識の内に早歩きになっていた。

 そんな楽しいウキウキ道中の中、アレサは歩きながらメンバー2人の顔を上機嫌で見つめる。


「この依頼で一番の功労者はやっぱ俺だろ?」


 どうやら、依頼成功報酬の取り分でマウントを取りたいようだ。いかにもお金大好きな彼女らしい言動に、残り2人はすぐに異を唱える。


「何言ったんだ、俺が一番だろ、天空神の加護でチレの体力をゴリゴリに削ったからあれで倒せたんだぞ?」

「お2人の頑張りも認めますけど、私が映像を撮影出来たから報酬がもらえる事もお忘れなく!」

「ぐぬぬ……」


 2人からの思わぬ反撃を受けて、アレサは何も言い返せずに下唇を噛んだ。その後もこの議論は白熱し、結局いい落とし所を見つけられないまま3人はギルドに帰還。

 アコが記録水晶を受付の人に渡したところで、森のモンスター討伐の依頼は完了する。


「確認しました。報酬は受け渡し場所でお渡しします。手続きをしますので少しお待ち下さいね」

「「「やったーっ!」」」


 自分達の仕事が認められ、無事に報酬がもらえる事が確定した時点で、3人は声を合わせて喜びあった。お互いの手を叩き合い、その軽快な音がギルド内に響き渡る。

 待合室でアレサ達の依頼失敗を期待していた他の冒険者達は、この番狂わせにお通夜状態になっていた。


「くそっ、彼奴等あいつら単独でクエストを成功させやがって……」

「でもたった3人でやり遂げんたんだぜ、流石だよな」

「ああ、あの実力は認めざるを得ないだろ……」

「でもやっぱ悔しいよなぁ~」


 こうして待合室ではため息の大合唱が始まる。ザワザワと外野の声の賑やかさがピークになってきた辺りで報酬が準備出来たらしく、受け渡し場所で3人の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。こうしてアレサ達は無事、依頼クリアの報酬を手に入れる。ずっしりと重い金貨は最初から3等分されていた。

 きっちりと3分割されていただけに、3人共誰も文句も言えず、そのままギルドを後にする。


 ドアを開けて外に出た3人は、それぞれ思い思いのタイミングで背伸びをする。全てが終わって肩の力の抜けたアコは、まだ入念にストレッチをしていた2人に向かって声を弾ませた。


「大きな仕事も終わったのですし、この辺で少し休暇にしませんか?」

「いいね。俺もやりたい事あるし」

「ええ~。稼げる時に稼ごうぜ? 俺はまだやれるぞ」


 アコの提案にアレサだけが不服そうな表情を浮かべている。残りの2人は休みたかったのもあって、すぐに説得工作に入った。


「報酬が入ったんですよ? 色々買い物したり楽しみたいと思いませんか?」

「いや、俺は別に……。お金がたんまりあるのを眺める方が好きだし」

「パーティーはチームワークが大事だろ。2対1。どっちの意見が優先されるか分かるよな?」

「それは……」


 ユウタスに数の力で押し切られ、上手く言い返せなかったアレサは渋々休暇を取る事に同意する。こうして、パーティはしばらく休暇を取る事になった。

 一度話が決まってしまえば、その時点でウジウジ悩まないのがアレサのいいところ。彼女は両手を広げて満面の笑みを浮かべる。


「折角休むんならさ、みんなでどっか遊びに行こうぜ」

「あ、俺パス、ちょっと天空島に帰るわ」

「ちぇ、付き合い悪いなぁ……」

「まぁそう言うなって。色々やりたい事があるんだよ。お土産買ってくっから」


 ユウタスはそう言うと1人先に歩き始める。その目的地は天空島と通じている転移ゲートなのだろう。

 女子2人は一瞬引き留めようともしたものの、彼が元々天空島に住む天空人だった事を思い出して、何もせずそのまま見送る事にしたのだった。

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