第68話 アコのお手柄

「あ、これ迷った時に拾ったやつだ」


 それは不思議な文様の入った小さな宝石のような何かだった。それを手にしたアコは、無意識に巨人に向かってかざした。

 すると、この謎の宝石から光が放たれ、チレの額にレーザーのように照射される。


「うぐああああっ! 何故それを貴様があっ!」


 このレーザー攻撃を浴びた巨人は、その身体をどんどん縮小させていった。そうして、気が付くと大体10分の1のスケールにまで縮んでしまったのだ。10メートルの巨体の10分の1、そう、彼女の苦し紛れの行動が、チレの体を1メートルにまでスケールダウンさせたのだ。

 この予想外の展開に、アコは手で口を抑えながら困惑する。


「え、えっと……」

「み、見るな、貴様らあああ!」


 さっきまで死すら覚悟していたアレサとユウタスも、目の前でいきなり自分達より小さくなってしまった森のモンスターのボスを前にあっけにとられてしまう。


「いや見るなって言われても……」

「まさか、お前本当はこんなにチビだったのか?」


 チビになったチレは、逆に今までこの森で襲いかかってきたどのモンスターよりも小さく、可愛らしくなってしまっていた。

 アレサは、思わずこのチビモンスターの頭を愛でるようになでる。


「結構かわいいなお前」

「お前とか言うな、このっ!」


 チレがその小さな腕をブンブンと全力で振り回すので、アレサは手を伸ばして牽制する。彼女の腕の長さの分距離を離すだけで、この小さなモンスターの攻撃は届かない。

 それがおかしくて、冒険者3人は全員クスクスと笑った。


「わ、笑うなっ、このっ!」

「くくっ、それにしてもどう言うからくりだよこれ」


 ユウタスは笑いを堪えながらミニモンスターに向かって質問を飛ばす。それにアコが続いた。


「この石でしょう。これは何?」

「それが力の石だ、賢者が持っていた。この石を使って俺はあの大きさになっていたんだ」

「でもこの石の力で小さくなったじゃない?」

「一度使うと石は力を放出し、次に使うと吸収するんだよ。だからもう一度使えばっ……」


 チレはそう言いながらアコの手に持っていた石を奪おうとする。当然それを許すメンバーがこの中にいるはずもなく――。


「さっきはよくも俺をボコってくれたよな!」

「ひぃぃっ!」

「これは俺の分! 逆鱗パーンチ!」


 まずはユウタスが思いっきりチレをアッパーで吹き飛ばす。元の姿に戻ってしまった森のボスは体重も軽くなってしまったのか、この恨みのこもった一撃で空高く放物線を描きながら飛ばされる。


「うぐほおおおお!」

「俺にもやらせろっ!」


 次に動いたのはアレサ。さっきまで可愛がっていたのに、その前にボコられたのを思い出したらしい。

 彼女は、剣を鞘から抜き超高速で空気を斬り裂いた。


「剣技! 真円かまいたち!」

「ぎゃああああっ!」


 アレサの剣から生み出された空を飛ぶ斬撃は空中を飛んでいくチレを見事に捉え、その小さい体を真っ二つに切り裂く。次の瞬間、何らかの魔導反応が起こり、チレの体は爆発四散した。

 ユウタスは、その様子を目を細めながら確認する。


「最後は随分とあっけなかったなあ……」

「アコ、ちゃんと記録してる?」

「バッチリ!」


 そう、一番大事なのはちゃんとモンスターの殲滅に成功したかどうかと言う事。その証拠用として、ギルドから記録水晶も預かっていた。撮影担当はアコ。

 ボスがちっちゃくなってからは武闘派2人がきっちり倒してくれると信じて、彼女はずうっと一連のやり取りをこの魔法具で記録していたのだ。


 全てが終わって確認再生すると、ボスが爆発するところまでクリアな画質でバッチリ撮影されていて、3人はほっと胸をなでおろす。

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