第67話 苦戦、森の真ボス
そんな膠着状態の続く中、アコは倒れたユウタスに近付き、素早く魔法薬をふりかけた。表面上の体の傷はみるみる回復していくものの、彼自身の意識はすぐには戻らない。
アコは昏睡するユウタスの額に手を当てる。
「熱はない……。薬は効いているし、苦しんでもいないから大丈夫……だよね?」
アコは倒れているユウタスを気にかけながら、今まさに勝ち目の薄い戦いに挑もうとしている女剣士の方に目を向けた。
「お前もあの男のように動けなくしてやろう」
「はっ、さっきまで劣勢だったくせにでかい口を叩くじゃないか」
「お前からはさっきの男の力のようなプレッシャーは感じない! 実力で私を黙らせてみろ!」
「いいだろう……俺を舐めた事を後悔させてやる」
チレの挑発に乗る形でアレサは剣を構えながら地面を蹴る。そうして、振りかぶりながらこの状況に一番相応しい技を一瞬で判断して繰り出した。
「剣技!
それは剣に水の気を纏わせ、超高速で水平に薙ぎ払う事で対象物を細胞単位で切断するかなりの集中力を精神力を必要とする技。成功すれば対象者は何も感じないままに一瞬で四肢を切断され絶命する。究極の剣技のひとつだ。
ただし、斬るタイミングが少しでもずれればあっけなく不発に終わる、とてもデリケートでリスクの大きな技でもあった。
「はああああっ!」
「私は賢者の知識を取り込んでいるのだよ。その技の脆弱性も手に取るように分かるぞ!」
チレは丸太のような太い腕をぐいっと伸ばし、技が完全に発動する直前の一番絶妙なタイミングでアレサの剣を弾いた。技を出す事だけに集中していた彼女は、この不意打ちにいとも簡単にふっ飛ばされる。
「キャアアアッ!」
その先には倒れたユウタスと彼を抱き抱えるアコの姿があった。そう、チレは意図的にそこにふっ飛ばしたのだ。
「ふははは! 3人まとめて食ってやるわあ!」
アレサの実力が自分にとって取るに足りないものだと分かった巨人は、ニンマリと邪悪な笑みを浮かべると、豪快に腕を振りながら意気揚々と3人の前に歩いてくる。
アレサはふっ飛ばされてすぐで体が動かせないし、ユウタスも全く同じ状況。残るのはアコ1人。とは言え、バトルキャラでない彼女はこのピンチをひっくり返す手段をすぐには思い浮かべられなかった。
まずはしっかり自分の役割を果たそうと、アコは傷ついた女剣士に魔法回復薬を振りかける。
「アレサ、しっかり!」
「ああ、有難う……」
「クソ、最悪だな」
アレサの傷の回復に成功したところで、ようやくユウタスの意識も復活。アコはその顔を覗き込む。
「ユウタス、大丈夫?」
「まだ体がちゃんと動かせない、ヤバいな……」
頼みの綱の2人がまともに動けない中、チレはズンズンと近付いてくる。絶体絶命の状況は何も変わっていなかった。何とか体の動かせる状態になったバトル組2人はヨロヨロと立ち上がり、目前に迫る巨大な災厄に立ち向かう。
とは言え、万全の状態でない2人ではチレを倒せる可能性はほぼゼロに等しい。その結末は全員があの巨人の胃袋に収まると言う最悪な想定だ。
アコは戦況を見定めながら、それだけは何とか避けようと頭をフル回転させる。
「あ、あわわわわわわ……」
「さて、どれから食おうか。やはり生きの良いのが美味いかな……」
チレはぐいーんと勢い良くユウタスを掴みにかかる。まだ本調子でない彼がこの攻撃を避けきる事は難しいだろう。破れかぶれになったアコは、ポケットの中や荷物の中にこの場面で使えそうな何かがないか探し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます