第60話 古代の記憶と突然の転移

「な、何だ? 頭に直接何かが……」

「落ち着け、これは古代天空人からのメッセージだ」

「ちょっとワクワクしますね」


 混乱を鎮めようとしたユウタスの言葉通り、確かにそれは古代天空人からの置き土産だった。

 まず3人の頭の中に広がったのは、数千年も昔の、この神殿がまだ通常運転していた頃の映像。今は人1人いないこの神殿を、天空人達がたくさん歩き回っている。

 そうして、神殿を作った天空人以外に、地上人の姿も見受けられた。


 3人が過去の神殿の姿を把握した瞬間、視点はいきなり神殿の外に飛ぶ。すると、そこには神殿の本来の姿が映っていた。空中に浮かぶ神殿は天空島と繋がり、神殿は地上から伸びている塔に接続されている。そう、伝承の通り、かつては物理的に天空島と地上は繋がっていたのだ。

 天と地が強固に繋がった時代、人々の生活は潤い、大いに繁栄していたようだ。


 しかしその繁栄が長く続く中で、少しずつ心の不純物、魔が侵入し始め、やがて塔は制御を失ってしまう事になってしまう。コントロールが失われる中、何とか塔を正常化させようとした当時の人々は、魔のエネルギーだけを抽出し、それを排除しようと試みる。

 そうやって純粋な魔の力を圧縮している内に、それぞれがひとつの生命体として凝り固まり、魔物に変化していった。


 魔物として自由に動く体を手に入れた異分子達は、塔の中で破壊活動をし始める。最初の頃こそ、人間達もその動きを抑制しようと武器を手に取り応戦していたものの、やがて魔物の勢力の方が強くなり、力関係が逆転。

 塔内部は、魔物達によって無法地帯と成り下がってしまう。


 人間達は最後の手段として、魔物を塔内部に閉じ込めた。とは言え、魔で充満していた内部では魔物が増殖するばかり。そこで、神殿の制御システムは魔物だらけになった塔自体を危険な存在と認定、破壊システムが作動して塔は破壊される。

 こうして、天空島と地上の物理的接続も解消された。


 塔の破壊で魔物がいなくなったとされたものの、実際には既に神殿内にも魔物の徘徊を確認。当時の天空人も最初は排除に奔走するものの、とても手に負えないと判断。天空神殿そのものも放棄される事となった。

 この情報は、いつか神殿が完全に浄化された時、調査隊に真実を伝えるために有志が残したもの――。


 こうして全ての情報が伝わり終わったところで、制御球から強い光が放たれる。その光の刺激で3人は同時に我に返った。


「わわっ!」

「まぶしっ!」

「キャアッ!」


 その光が収まった時、3人はほぼ同時に顔を左右に動かして周りの景色を確認すると言う行動を取る。何故なら、もうそこはさっきまでいた天空神殿ではなかったからだ。

 制御球が光ったほんの一瞬の間に、どうやら3人は現代のどこかの民家に転移してしまったらしい。


「何かいきなり見覚えのある場所に飛ばされたな」

「……確かに、俺、ここを知っている気がする」

「え? 嘘? どう言う事なの? 私は知らない場所だよ」


 アレサとユウタスが転移先の場所に親近感を覚える中、アコだけがまだ戸惑っている。その違いは冒険の出発点が違うからだろうか。

 やがて目が慣れて視界がはっきりしたところで、アレサが何かを発見した。


「あ、あそこから出られそうだよ」

「んじゃ、出てみるか」

「出ましょう、外に出れば何か分かるかもですし!」


 3人はお互いにうなずき合うと、取り敢えずこの民家を出る事にする。幸い、この扉に鍵はかかっておらず、簡単に開ける事が出来た。その先で3人を待っていたのは、地上のまぶしい陽射しの洗礼。

 アレサは、このいきなりの直射日光にまぶたを細める。


「うわっまぶしっ」

「ちょ、ここって……」


 ユウタスは目の前に広がる光景を見て困惑している。何故なら、それはものすごく見覚えのある景色だったからだ。

 3人が外に出てきたところで、その建物の住人らしき老婆が近付いてきた。


「あんたら、戻ってきたんかい」

「えっ、おばあさん?」

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