第56話 天空神殿、探索の末に

「ちょ、先に行くなって」

「ああ、2人で盛り上がっていたから邪魔したら悪いかなって」

「や、意地悪言うなよ、こんな時に」

「す、すみません、私がひとり勝手に盛り上がったせいで!」


 アコはアレサが1人で先に行った事に関して責任を感じ、走りながら謝罪した。こうして天空人の話も終わり、何となく元の雰囲気に戻っていった。

 その後も古代天空人の神殿探索は続き、マップは順調に埋まっていく。場所が神殿なだけに遺跡で見られた罠的なものは何ひとつなかったものの、神聖な場所である神殿に邪悪の象徴であるモンスターが徘徊している事に、ユウタスの違和感は消えないでいた。


「しかし、どうして神殿にモンスターがいるんだ?」

「いるものは仕方ないだろ。受け入れろよ」

「多分、もうここにモンスターを跳ね除ける程の力がないからじゃないでしょうか」


 アレサとアコはそれぞれの見解を口にする。その意見に一応の納得をしたユウタスは、当面の目標である神殿に探索に集中する事にした。


「ま、分からないものは仕方ないよな……」

「そうだよ、今は今やるべき事に集中!」


 アレサはユウタスの背中を勢いよく叩く。それで彼も気持ちを切り替えて、襲いかかってくるモンスターに殴りかかっていった。

 神殿内を歩き回って大体の雰囲気が分かってくると、3人にもかなり心の余裕が生まれてくる。襲ってくるモンスターは神殿の深部に向かっても特に強くなる事もなく、段々探索の邪魔にすらならなくなっていた。

 襲ってくるモンスターを倒し終え、アレサは剣を鞘に収める。


「ところで、俺達はどうやって帰ったらいいんだ?」

「神殿内に帰還ゲートっぽいものがあると俺は思ってるんだけど」

「思う? 何だか頼りないなぁ。最悪ここから出られないかもじゃないか」

「そんな事言ったって、俺だってここに来たの初めてなんだぞ」


 ここに来て、神殿からの脱出経路についてアレサとユウタスが言い争いを始めた。行き当りばったりで進んでいるから、この先がどうなるかなんて全く保証出来ない。

 とは言え、これも答えのない論争だ。この3人の中でこの神殿の事を隅々まで把握しているメンバーはいないのだから。


 水掛け論が続いて場の雰囲気がまた悪くなりそうになり、アコが2人を止めようと手を伸ばす。


「止めてください! きっとこの先に希望はありまぁす!」

「「アコ?」」

「私のトレジャーハンターの勘が言ってます、この先にきっと何かがあるって」

「この先……」


 アコの言葉にアレサが振り返ると、そこには意味ありげな大きな扉があった。さっきの言葉を信じて、その先にある何かに期待しながら彼女が開けようと両手に力を込めるものの、扉はびくともしない。


「開かねぇ……何でだよ。古いからガタが来てるのか?」

「ここは私の出番ですね! 数々の遺跡の扉を開けた私にかかれば……あれ?」


 女子2人が扉を開けようと頑張るものの、固く閉ざされたそれは侵入者の入場を許可しようとはしなかった。力任せに開けようとするアレサに、押したり引いたり更には呪文を唱えたりと創意工夫をするアコ。

 そんな2人の奮闘をユウタスはしばらくは傍観していたものの、一向に事態が進展しないのを見て、ため息を吐き出した。


「ったく、ここは天空人の神殿だぞ。俺に任せろ」


 彼は女子2人をどかすと、その侵入者を阻む鉄壁の扉に両手をついた。その様子をアレサ達はゴクリとつばを飲み込みながら黙って見守る。

 ユウタスが気合を入れて力いっぱい押すと、天空人を感知したのか、さっきまでどうやっても無反応だった扉がゆっくりと押し開けられていく。


「おお! やるじゃないかユウタス!」

「へへ、それじゃあ先に進むぜ!」


 こうして硬い扉で封じられていた先へと3人は進む。その先で冒険者達を待っていたのは、目もくらむようなお宝でもなく、この神殿から脱出するような仕組みでもなく――侵入者の生存を絶対許さないと言う強い意思を感じさせる、巨大なモンスターだった。

 期待を裏切られたアレサは、すぐに気持ちを戦闘モードに切り替える。


「こいつ、ここのボスかよっ!」

「あの扉で封じていたんだ、開けるべきじゃなかった!」

「今更遅いですよっ!」

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