第53話 門番が守っていたもの
こうして打ち解けあった3人は、改めてモンスターが守っていたその先のエリアへと足を進める。長い一本道を抜けた先でアレサ達を待っていたのは、長い橋とその先にある意味ありげな離れ小島。橋の先にある小さな飛び地にはオブジェ的な何かが鎮座している。
それが何かは分からないものの、モンスターがわざわざ門番をするくらいなので、人間に触らせたくない、そう言う特別なものである事を匂わせていた。
そのお約束的な景色を見たアレサは、ヒューッと口笛を吹く。
「あれはお宝か何かなのかな?」
「行ってみよう」
「あ、みなさんちょっと……」
乗り気な2人に対し、アコは膝をがくがく震わせている。怖気付いている彼女を無視して、目がお宝にしか向いていないアレサは、ホイホイと長くて狭い不安定な橋を陽気に口笛を歌いながら渡り始めた。ユウタスもすぐにその後に続いていく。
一方、1人取り残されたアコはしばらくの間その場に留まっていたものの、淋しさに耐え来れなかったのか、恐る恐る橋を渡り始めた。
「こっこ……怖いぃ~」
どうやらアコは高所恐怖症らしい。橋の下は真っ暗で底が見えない。それが彼女の恐怖を倍増させていた。橋自体の強度はそれなりで、3人が渡っても大袈裟に揺れると言う事はない。
それが確認出来てなお、アコは
「み、皆さん慎重に歩いてください~。落ちたら死んじゃいますよこれぇ~」
彼女は絶叫するものの、先頭を軽快に歩くアレサはもう橋を渡りきりかけていた事もあってその声は届いてはいない。
ユウタスはアコの必死な声を聞いて途中で立ち止まっていた。どうやら彼女が追いつくまで待つつもりのようだ。
「焦らなくていいから。俺はここにいる」
「ユウタスさぁ~ん。有難うございます~」
2人が橋の上でそんなやり取りをしていた頃、アレサは無事に橋を渡りきる。渡りきれた喜びに、彼女はその場で楽しそうに小躍りをした。
「やったー! みんなも早くおいで……えっ?」
アレサが後に続く2人を確認しようと振り向いたその時、橋そのものが崩れ始めていくのを目撃する。どうやらこの離れ小島には1人しか渡らせないトラップが仕込まれていたようだ。
この非常事態に、元々高所恐怖症だったアコは落下しながらパニックになる。
「キャアアアーッ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅー!」
「ちょ、みんなーっ!」
渡りきれたアレサも仲間が大変な目に遭っているのを目撃し、頬に両手を当てて絶叫していた。
「ったく、しょうがねーな」
一緒に落下していたユウタスは、そうつぶやくと背中の羽を開放。正気を失っているアコに向かって飛んでいき、素早く抱きかかえると飛び地にまでひとっ飛び。混乱しているアレサの隣に難なく着地した。
「俺の事、忘れてただろ」
「だってユウタス、あなた普段は飛ばないじゃない」
「飛ぶのも体力使うんだよ。歩いていけるなら足の方がいいに決まってんだろ」
「ふーん、大変だね」
ユウタスとアレサは、お互いの認識の違いを会話をしながら修正し合う。その様子を横で眺めていたアコは、恥ずかしそうに言葉を漏らした。
「あの……有難うござい……ます」
「いや、当然の事だから。あんまり気にしないでいいよ」
「おおっ、言うね~。いざとなったら俺も頼むぜ」
「えぇ~。アレサ、重そうだからなぁ……」
ナチュラルに失言したユウタスは、アレサにポコポコと殴られる。その様子を見たアコは、フフッと笑い始めた。それを見てアレサ達も笑い始める。こうして、場の空気はいい感じに平穏を取り戻した。
場の気配が通常の雰囲気に戻ったところで、アレサはこの飛び地の中央にある謎のオブジェに向かって指をさす。
「じゃあ、あそこまで行こっか」
「おうよ!」
「楽しみですね」
飛び地は狭いのでそのオブジェまではあっと言う間に辿り着く。至近距離で確認すると、その意味ありげなものは石碑のようだった。
ツルツルに磨かれた表面には文字らしきものが刻まれていて、最初に覗き込んだアレサはその意味を解読する事が全く出来ない。
「何だろこれ? 読めないけど、すごい事が書いてあるんだよねきっと」
「ちょっと待ってください! 私、この文字に見覚えがあります!」
アレサが謎の文字に首をかしげる中、元々遺跡探索の専門家で古代文字について造詣の深いアコは、自前の小さな手帳を取り出して、石碑に刻まれた解読しようと鼻息を荒くする。
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