第51話 迷っていた少女
その頃、先に落下していたアレサは野生の勘で体勢を整え、見事に着地していた。落下時に体に付着した埃を手で払っていると、視界の先にうごめく何かを発見する。
「ん? 何だ?」
彼女が額に手を当ててそれを確認していると、上空から声が聞こえてきた。どうやらユウタスも同じトラップにはまって真上から落ちてきたようだ。
アレサが顔を上げると、背中の羽を使ってふわりと降りてくる天空人の姿を確認する。
「おお、ユウタスも降りてきたのか」
「2人しかいないパーティだろ」
「あはは、それもそうか」
こうして2人は無事に再開し、お互いに拳をぶつけ合う。そうして笑い合っていると、その進行方向の奥の方からか細い声が聞こえてきた。
「あ、あの……」
「うおっ、人がいたのか」
「うわあああん、助かったあああ!」
「えええっ!」
奥にいた人物はものすごい勢いで2人の前に走ってくる。状況がまだよく分からない2人はお互いに攻撃の構えをとった。
しかし、姿がハッキリした瞬間、それが自分達と同じ冒険者だと言う事が分かり、すぐに警戒を解く。2人が警戒を解いてからも冒険者は近付くスピードを落とす事なく、むしろ更に加速してそのままアレサに勢いよく抱きついた。
その冒険者の見た目は、アレサと同世代くらいの可愛らしい少女だった。
「私、ずうっと待っていたんです。救援隊の方ですよね!」
「い、いや違うんだが……」
「俺達も君と同じ冒険者だよ」
ユウタスの言葉を聞いた彼女は、事情を察してがっくりと項垂れる。そうしてゆっくりとアレサから離れた。
「じゃあ、あなた方も迷ってしまってここに辿り着いてしまったのですね。もうダメだあ~っ」
冒険者は随分とこの場所に留まっていたらしく、すっかり憔悴しきってしる。彼女は2人の見ている前でしゃがみこみ、自分の不運を大声で喚き散らしていた。
そこで、アレサは同じくしゃがみ込むと、塞ぎ込む彼女の肩を優しくポンと叩く。
「ちょ、こんな所で塞ぎ込むなよ。とにかく事情を話して。俺はアレサ、で、あっちが相棒のユウタス。お前は?」
「えっと、私の名前はアコです……」
そう、この1人でこの場所に取り残されていた冒険者こそ、アコだったのだ。アレサは困惑しながらも、彼女から事情を聞く事にした。
「で、どうしてアコはここに?」
「あの、私は、仲間とこの遺跡の探索の依頼でやってきたんです、それではぐれて……あの、お2人は?」
「俺達も似たようなもの、いや、違うな……。遺跡の未知エリアの探索の依頼で今その仕事をしているだけだ」
ここでアレサは少し見栄を張った。戻ろうと思ってもその手立てがないなら迷っている事と同義のはず。それを敢えて伏せたのだ。
その思わせぶりな言葉に、アコは目を輝かせながら食いついてきた。
「じゃあ、戻る道を知ってるのですね!」
「え、えっと……まぁ」
その勢いに押し切られて、アレサはついその話に乗っかってしまう。この会話の流れを聞いていたユウタスは、すぐに彼女をアコから引き剥がして少し離れた場所に移動する。
「何言嘘ついてんだよ」
「いやだって、あのアコの顔を見ただろ。本当の事なんて言える訳がない」
「嘘ついている方がよっぽど悪いじゃないか。後で失望されるぞ」
「戻る道はこれから自力で探せばいいだろ。どこかにそう言う転移魔法陣があるかも知れないし」
アレサのある意味ポジティブな主張に押し切られ、ユウタスは何も言えなくなってしまう。結局、探索をしながら出口に戻るルートを探すと言う事で決着が着いた。
話し合いはこうして終わり、2人は1人にされて不安そうなアコのもとに戻る。アコはアレサが近付いた途端、すぐに彼女のもとに駆け寄ってきた。
「何を話していたんですか?」
「えっと、これからの事、かな?」
「良かったら、あの、私も一緒に同行してもいいですか?」
「え、えっと……?」
アコからの同行の要請にアレサは困惑。その困り顔のまま、彼女は相棒の顔を見た。
「俺は別にいいよ。ここで出会えたの何かの縁だろうし」
「あ、有難うございます!」
アレサの承諾を聞く前に、アコは食い気味に2人に向かって深く頭を下げる。こうなってしまうと、アレサもこの提案を飲むしかなくなった。
とは言え、元々彼女もアコを助けたいと思っていたので、異論が出るはずもない。こうして即席3人パーティは出来上がった。
「……と言う事はお2人はまだこのエリアについて詳しくないんですよね」
「ま、まぁそうだけど……」
「任せてください! 私、詳しいんです!」
アレサの返答を待つ前にアコはどんどん先に進んでいく。この独断専行に置いていかれた2人は顔を見合わせた。
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