第50話 中庭の大きな樹の記憶
アレサは、遺跡内にこんな場所があると知って興奮する。
「おい、中庭だぞ!」
「ちょ、待って」
目を輝かせながら駆けていく彼女を追いかけて、ユウタスも走る。2人の前に現れたのは、放置されて自然に戻った草花と、中央にそびえる大きな樹。それは、まるでこの遺跡の主のような偉大な風格を漂わせていた。
ユウタスはその樹を見上げて、ほうとため息を吐き出す。
「これは……すごいな」
「ああ、立派だ。立派すぎるくらいだ」
アレサもまた同じ巨木を見て感動に打ち震えている。そうして、まるで吸い寄せられるかのように樹に近付いていった。
彼女はそのまま太い樹の幹に手を触れ、何かを感じ取っているようだ。その内に感極まったのか、両手を広げて幹を抱きしめた。ユウタスはそんなアレサの姿を見て少し気後れしてしまう。
気持ち良さそうに幹を抱きしめていた彼女は突然くるりと首を動かすと、離れた場所でほぼ硬直している相棒に微笑みかけてきた。
「ユウタスも来なよ。この樹、不思議な感じなんだ」
「だ、大丈夫なの……か?」
「当然だろ。さあ、早く」
アレサに急かされて、ユウタスも彼女の隣で同じようにした。樹に流れる不思議な力を彼も直に感じ、徐々に心身が癒やされていく。
「本当だ、不思議な樹だな」
「癒やされて眠くもなってくるな」
「いや、流石に寝たらだめだろ……」
完全に樹に気を許した2人に、今度は強烈な眠気が襲ってきた。それまでにすっかり癒やされていた2人は立ったまま深い眠りに落ちていく。夢の中で2人の意識はシンクロし、同時に同じ夢の景色を眺めていた。
そこで展開されていたのは、この遺跡の歴史。海沿いの村でおばばが話していた伝説と同じ内容を、今度は人の言葉ではなく、目に見える映像として体感していた。
かつての栄光とその没落。中庭の樹は生体記憶装置の役割もあるのかも知れない。たっぷりと遺跡の歴史を体感した2人は、そのままスーッと自然に目が覚める。
と、同時に、ここから先に行くべき場所も何となく理解していた。
「アレサ、あの夢、見た?」
「遺跡の歴史だろ? ユウタスも?」
「ああ。じゃあ、先を急ごうか」
樹から受け取ったメッセージを頼りに、2人は中庭を抜けてその先へと歩き始める。流れ込んだイメージがしっかりしていたので、2人は少しも迷わずにその場所へと向かった。
ただ、行き先は理解していたものの、その道の先に何が待ち受けているかは2人とも何も知らない。何となくそこに行かなければならないと言う使命感のようなものだけが2人を突き動かしていたのだ。
その場所へは、中庭を抜けてものの数分で辿り着く。
しかし、辿り着かなければいけなかったその場所は、着いてみるとただの行き止まりでしかなかった。この結果に、2人はほぼ同時に首をひねる。
「あれ?」
「本当にここが大事な場所?」
2人は狐につままたような違和感を感じ、引き返そうと背後を振り返った。そうして一歩を踏み出したところで罠が発動。また別の場所に転移してしまう。
「うわあっ」
「また転移っ!」
罠によって半ば強制的に移動させられた場所は、さっきまでの何もない雰囲気とは少し様相が違っていた。何とそこにはモンスターがうろついていたのだ。2人は先手必勝とばかりにモンスターが気付く前に殲滅を試みる。
ユウタスの拳撃とアレサの剣術によって、モンスターは反撃の機会を与えられる事なく次々と倒れていった。どうやら、このエリアのモンスターはあまり強くはないようだ。
ワンパンで倒れたモンスターを見下ろしながら、ユウタスは若干の物足りなさを感じる。
「あれ? 意外と楽勝?」
「油断するなよ。警戒しながら進んでいこう」
転移させられたと言う事もあり、マッピングはまた最初から始めねばならない。ユウタスは、新しい用紙にこのエリアの地図を書き始めた。
ただ、さっきまでのエリアと違って、弱いながらも敵は出てくるし、転移系の罠はあちこちに設置されているしで、マッピングは中々スムーズには行かなかった。
ただし、どうやら転移系の罠はこのエリアの少し離れた場所に飛ばされるだけのようで、大体の位置が把握出来るようになると、それはさほど障害ではなくなってくる。
そうして、罠を避けて進んでいくと、一本道の正解ルートが浮かんできた。
「ここで右だ」
「了解」
マッピングをユウタスが専門で記入するようになった時点で、戦闘は全てアレサが担当していた。とは言え、現れるのが一撃で倒せる雑魚ばかりだったのもあって、切り込み隊長もそんなに負担にはなっていないようだ。
「で、この道をまっすぐ……おわっ」
「任せろ!」
彼が選択した道を歩いていると、2人の前にまたしてもモンスターが現れる。アレサは剣を構えると一気に突進していった。
現れたモンスターが今まで一撃で倒せたのと同じ種族だったのもあって、サクサクっと目の前の障害は物言わぬ
「雑魚に用はねーんだよおっ!」
「もっとゆっくり歩いて。少しは罠の心配を」
「男の癖に小せぇ事……。うわああっ!」
「アレサ!」
調子良く前を進んでいたアレサが突然視界から消えた。ユウタスがすぐに確認するとどこにもおかしい部分はない。床が怪しいと踏んだ彼が抜き足差し足忍び足と慎重に進んでいたところ、突然パカッと足元の床が開く。
その瞬間にアレサの消えたからくりが判明するものの、落下中のユウタスに出来る事は何もなかった。
「うわああああ!」
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