第49話 探索開始

「この島、動物の気配が全くない」

「そう言えば……何だか不気味だな」


 アレサも静かな島に違和感を覚え、顔を左右に振る。木々は鬱蒼と茂っているのに動く物の姿のない景色は不気味さを一層際立たせていた。そうして、ある程度歩くとお目当ての遺跡に到達する。

 ただし、辿り着いたそこには入り口らしきものが見当たらなかった。


「うーん、壁だなぁ……」

「でも、多分どこかに入口があるはず……」

「じゃ、探すか」


 アレサの助言もあって、2人は壁沿いに歩いて入口を探し始める。ユウタスは魔法で入り口が偽装されている可能性も考えて、壁に手を当てながら歩いていった。

 歩いてみると島は意外と大きく、2人は延々と歩き続けてしまう。上陸してから中々上手く行かない事に関して、2人だけの探索隊のストレスは溜まっていった。


 半周廻ったところで正規の入り口に到達したものの、そこから入るのも癪なので2人は別の入口探しを続行。結局島をぐるっと一周してしまう。

 見覚えのある景色が巡ってきて、アレサは口をとがらせた。


「ちょ、一周しちゃったじゃん」

「いや、俺に言われても……。アレサだろ、島の裏側から行こうって言ったの。じゃあ戻る?」

「今更行けないだろ」

「じゃあどうするんだよ、入り口なんて他になかったじゃないか!」


 イライラが頂点に達したユウタスは、ここでそのストレスを遺跡の壁に思いっきりぶつける。するとその衝撃で遺跡のシステムが作動。2人の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「ちょ、何だこれ?」

「まさか壁を殴るのが発動条件?」


 2人が戸惑っていると足元の魔法陣から光が発生し、天に向かって伸びていく。この光に包まれた2人はそのまま別の場所に転移した。


「「うおっまぶしっ」」


 どこに転移したのは分からなかったけれど、転移先の2人の前にあったのは正規の入り口とは違う、こじんまりとした入り口だった。その大きさは、大人1人が入るので精一杯くらいのサイズ。

 目的通りに別入り口に辿り着けたと、2人は顔を見合わせて喜びあった。


「やった、やったよ!」

「ようし、冒険の始まりだ!」


 先に一歩を踏み出したのはアレサ。と、言う訳で、ここからの遺跡の本格的な調査は彼女を先頭に行われる事となった。


「えっと、今どこらへん?」

「うーん、分からん」

「えっ?」

「正規の入り口から入ってないんだから仕方ないだろ!」


 アレサの作戦で裏道から入る事を選んだ2人だったものの、魔法で転移されたのもあって、現在地は分からないままのスタートとなってしまう。

 仕方なく転移された場所を起点に手動でマッピングを始めるものの、2人共そう言うのが得意ではなく、中々先に進めない。


 依頼を受けた時に貰ったマップがあるから楽勝と思っていたアレサは、計算違いが生じてストレスを溜めまくっていた。


「あーもう、どうしてこうなるんだよおっ!」

「いやアレサが提案したんだから、コレ。恨むなら自分を恨みなよ」

「ぐぬぬ……」


 魔法で転移した場所はかなり複雑な地形で、マッピングは困難を極めてしまう。正しい道順が分からないため、分かれ道の度に両方の道を確かめるとかしていたので、更に時間がかかっていた。

 ぐるぐるとローラー作戦でマップを作っていく中、ユウタスは遺跡の天井を眺めながらポツリとつぶやく。


「でもこの遺跡、モンスターいないよな。罠とかも今のところないし。マッピングはしんどいけど、邪魔がないだけまだマシだ」

「罠はほら、今までの冒険者が全部潰したのかもだぞ? モンスターも狩り尽くしたのかも」

「だとしたら、ここまで歩いていて他の冒険者にまだ会えないっておかしくないか?」

「それは……」


 ユウタスの質問にアレサは口ごもる。そう、かれこれ2時間くらいこの遺跡内をさまよって、2人はまだ誰とも出会っていなかったのだ。その理由を2人は突き止める事が出来ず、気持ちが中途半端になってしまっていた。

 やがて、話す事もなくなった2人は黙々とマップを作る事だけに集中する。そうして、探索を始めてから3時間が経とうとしていた頃、迷いまくっていた遺跡に変化が訪れる。ずーっと無風だったところに風が吹き込んできたのだ。


 必然的に2人はその風の吹く方向に向かって歩いていく。その先にあったのは――中庭だった。

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