第47話 ユウタス、初めての海

「……全く、仕方がないねぇ。何が起こっても自己責任だよ!」

「当然、心がけています!」


 ただ忠告するだけなら、おばばもわざわざ自分の家には招かなかっただろう。つまりはひょっこり村に現れたこの命知らずの冒険者達の本気度を図っていた、そんなところのようだ。

 おばばとアレサ、同性同士のにらみ合いで何か通じるものがあったようで、結局アレサ達は無事に船を借りる事が出来る事となった。


「いいかい、貸すだけだからね。無事に戻ってくるんだよ」

「そこは大丈夫。俺達は強いからな」

「その言葉、信じておるぞ」


 こうしてアレサ達はおばばに見送られて出発する。海が初めてなユウタスには任せらなかったのでアレサが漕ぐ事となった。島が目の前に見えている以上、そこまで遠い距離ではない。少し漕げばすぐに目的地に着く事だろう。

 けれど、ここで問題が発生する。波は穏やかだと言うのに、船がえらく揺れるのだ。あんまり揺れが酷いものだから、ユウタスは気持ちが悪くなった。


「何でそんなに漕ぐのが下手なんだよ!」

「し、失礼な! これでも頑張ってるんだぞ!」

「俺だってもうちょっとまともに漕げるぞ……うぷっ」

「じゃあユウタスが漕いでみなよ!」


 売り言葉に買い言葉になり、漕手は交代。ユウタスは目を輝かせながらを握った。


「よーし、まっかせろお!」

「ほ、本当に大丈夫なんだろうな?」

「だーいじょうぶだって!」


 そのハイテンションな浮かれっぷりを目にしたアレサは、すぐに嫌な予感を覚える。そしてそれは見事に的中した。

 好奇心の赴くままに漕ぐ彼の傍若無人な操船によって更に船は揺れまくり、今度はアレサの方が船酔いしてしまったのだ。


「おまっ、舟漕いだ事あんのかっ?」

「今漕いでるじゃねーか。俺初めて漕いでるんだぞ。前に進んでいるだけですごくね?」

「ちょ、うえええ……」


 船漕ぎ初挑戦と言う事実を知って、アレサはユウタスを止めようと立ち上がろうとした。その瞬間にも船は大きく揺れ、気分が悪くなった彼女は思わずしゃがみ込み、せり上がってきたものを盛大に海に向かってリバースする。


「げろろろろ……」

「大丈夫か? まぁ船の事は俺に任せてアレサはそこで休んでな」

「うう……何だこの地獄」


 最初はそんなヒドい漕ぎ方だったものの、少し経験を積む内に感覚を掴み、島まで残り半分に来た頃には割とまともに操船出来るようになっていた。

 船を漕いでいると、ちょうど周りでトビウオが飛び始めたものだから、彼は更に目を輝かす。


「おわっ、魚がジャンプしている」

「アレはトビウオだよ」

「へぇ、初めて見た」


 ユウタスは初めて体験する海を存分に堪能していた。キョロキョロと楽しそうに顔を左右に振る相棒を見たアレサは、青白い顔のまま、この浮かれた天空人の話に付き合う。


「天空島にはいないのか? うっぷ」

「見慣れてたら驚かないよ」

「ま、そりゃそだな」


 船の揺れはかなり収まったと言うのに、彼女はまだ具合が悪いようだ。なので、何故この海域でいきなりトビウオが飛び出したのかその理由にまで頭が回らない。

 当然、海すら初めてのユウタスに至っては何もかもが未知の領域だ。そのために判断がかなり遅くなってしまう。そう、トビウオは前触れに過ぎなかったのだ。


 海中から、大きな黒い影が2人の乗っている船に向かって猛スピードで突っ込んでくる。その気配にギリギリで気付いたアレサは、すぐにユウタスの方に顔を向けた。


「おい、今すぐ避けろ!」

「は?」

「どこでもいい、進路を変えろ!」

「何なんだよ、一体……」


 彼が文句を言いながらもその言葉に従った瞬間、海中から大きな何かが飛び上がってきた。その正体はサメっぽいモンスターだ。どうやら海の中にも沢山のモンスターがいるらしい。

 ユウタスはこの突然の状況に動揺して体が動かない。そもそも櫓で両手がふさがっているので、最初からモンスターへの対処は不可能なのだ。

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