第45話 船の交渉
「まずは誰かから船を借りるとかしないとだな」
「船?」
「泳いで島には渡れないだろ」
海の知識がほぼ皆無なユウタスは、アレサの言葉にいちいち反応した。若干それに苛立ちながらも、地上の知識の乏しいこの相棒に向かって、アレサは必要最低限のレクチャーをする。
「て言うか、そもそもユウタスは泳げないだろ」
「いや天空島にも池や湖はあるし、泳げなくは……」
最後まで言い切れなかった部分を怪しく感じたアレサは、ここで微妙に視線をそらすユウタスに軽く突っ込んだ。
「……泳げなくは?」
「て言うか、俺は飛べるから泳げる必要はないんだよ!」
「ふぅ~ん」
逆ギレする彼の様子から色々と察したアレサは、それ以上泳ぎに関する話題を振るのを止める。そうして話を元に戻し、船に関する情報の聞き込みを始めた。
この作業は、地上人のアレサが買って出る。
「ま、船の交渉とかは俺に任せなって」
「じゃあ、任せた」
そうして何人かの村人に聞いてみたところ、大体の事情が分かってきた。この村は海の側に位置するだけあって、住人の大半は海に関する仕事をしているらしい。
遺跡島が多くの人々の間で話題になってからは遺跡目当てに訪れる冒険者も増え、ちょっとした賑やかさになっていた事もあったようだ。
「でもなぁ、所詮この村は中継地点。冒険者は必要最低限しか寄ってくれんのよ……」
「なるほど。俺達もその冒険者なんだけど……」
「そりゃあタイミングが悪かったなぁ……」
「えっ?」
最初は調子よくニコニコと質問に答えてくれていたものの、肝心の船の交渉に移る前に段々と雲行きが怪しくなる。そこで、アレサは慎重に言葉を選んだ。
「何かあったんですか?」
「あの島に行く冒険者が増えすぎたんだよ。金払いがいいから気前良くホイホイ船を貸しちまったものだから、もうお前らに貸せる船はねえなあ」
「えええーっ?」
そう、島に渡ろうと思っても渡る手段がないのだ。港を見れば船はない事もない。ただし、今島に残っている船は村の住民が漁などで使う生活必需品。それを貸してくれとまでは流石のアレサも口には出来なかった。
更に、話を聞いているとなにやら不穏な噂も……。
「それにな、最近は遺跡島に行った半分は帰ってくるが、半分は行ったきりなんだ。戻ってこないかも知れないと言う事で、貸主も減ってきている。そのリスクもあって賃料も上がってるのさ。その料金は払えるか?」
「ええっと……」
困惑するアレサを視界の端に映しながら話を聞いていたユウタスは、嫌な予感を感じて考え込み始める。
あの海に浮かぶ遺跡島。村からもハッキリ視認出来る一見何の変哲もないように見えるあの小島は、本当はすごく危険な場所ではないのかと――。
「アレサ、よく考えようよ。ここまできてアレだけど、あの島は危険だよ。今ならまだ……」
「今なら何? 臆病風に吹かれないで。冒険者は一度受け行った依頼は死んでも遂行しなくちゃいけないんだよ!」
「ええーっ……」
結局ユウタスの抗議は見事にスルーされ、アレサは根気強く船の交渉を続ける。ただし、船に余裕のある人は現れず、どんなに言葉を尽くしても首を縦に振ってくれる人は現れなかった。
依頼を受けた時にいくらかでも前金が貰えていたら、その予算でもっと有利に交渉は進められていたかも知れないものの、予算の限られたケチンボ交渉術では誰も話をマトモには聞いてくれない。
そんな訳で、船を手に入れるには遺跡島に渡った冒険者の誰かがこの村に戻ってくるのを待つしかないようだ。
2人がすっかり途方に暮れていると、島に渡りたい若い2人組の噂を聞きつけた村の長老らしき雰囲気の謎のおばばが現れる。
「お主ら、あの島に渡りたいんじゃって?」
「えっと……はい」
「じゃあついてこい」
いきなり強引に話を進めようとするこの老婆に、ユウタスは不信感を抱いた。
「えっと、あなたは?」
「儂はこの村のちょっとした顔じゃよ」
確かに村の他の住民のおばばに対する反応を見る限り、その言葉に間違いはなさそうだ。2人はおばばが村の実力者だと知り、きっとこれで船が借りられると、喜んでついていった。
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