第44話 村までの道中

 そんな闇深い依頼主の事情など知らない2人は多額の成功報酬の妄想を膨らませながら、遺跡があると言う島に向かって歩き続けていた。当面の行き先はその島の対岸の村と言う事になる。

 そこに行くまでには、徒歩で丸2日。


 馬車などの乗り物を使うともっと早く着くのだけれど、経費節減と言う事で、2人はのんびりそれぞれの足で現地へと向かっていた。とは言え、修行も兼ねているので結構な速歩きだったりはするのだけれど。

 その道中で、アレサは改めてこの依頼達成までの段取りを説明する。


「で、その村についたら船を借りるから」

「船って事は海を渡るんだろ? 楽しみだなぁ」


 話しているとやたらと海に興味を持つユウタスに、アレサは首をかしげる。


「え? ユウタスは海が好きなの?」

「俺さ、海って見た事ないんだよ。だから楽しみで楽しみで」

「へぇ、俺からしたら全然珍しくも何ともないけどな」


 天空人にとって、海は地上でしか見られないレアな景色として憧れの対象だった。わざわざ海を見るツアーまであるくらいだ。

 その後、彼から海についての熱い思いを延々と聞かされたアレサは、この話を振るんじゃなかったと後悔したのか、頭を抱える。


「だから俺にとっても海って言うのはさ……」

「ちょ、黙って」

「何だよ……うん?」


 急に話を遮られて少し気を悪くしたユウタスだったものの、すぐにその意図に気付き、ぎゅっと拳を強く握る。

 アレサも腰の剣に手をかけて、注意深く様子をうかがっていた。


「そう簡単には進ませてくれそうにないみたいだぞ、ユウタス」

「ちょうどいい、歩いてばかりなのにも退屈していたところだ」


 2人が戦闘モードに入って集中力を高め始めた瞬間、木々の影から突然モスター達が襲ってきた。その数、8体。

 種族構成から、最初にスライム系がネバネバした体液を吐き出して動きを封じ、その隙にゴブリンが素早く襲いかかり、最後にオークがトドメと言うパターンのようだった。

 その作戦を一瞬で読み切ったアレサは、剣を構える。


「は、雑魚がいっちょ前に頭を使ってやがるぞ」

「俺達もコンビネーションで行くか」


 素早さでは拳闘士のユウタスの方が有利だ。まずは彼がその自慢の機動力を生かして飛び出す。

 スライム2体の連続体液攻撃を余裕で避けきると、そのまま距離を詰める。そうしてモンスターの核とも言えるコアを殴り倒してほとんど一瞬でスライムを瞬殺。この展開に一瞬の動揺を見せたゴブリン5体を、今度はアレサが得意の剣技で流れるように斬り倒していく。


 最後に残ったオークはアレサとユウタスの息のあったダブルアタックでほとんど攻撃をさせずに余裕で倒した。

 戦闘が終了して、ユウタスは背後のアレサの方に顔を向ける。


「多少は肩慣らしになったかな」

「今更ゴブリンとか目をつぶっていても倒せるぜ」


 その後の道中でもモンスターに出会う事はあったものの、この周辺で遭遇するモンスターは雑魚ばかり。

 それら襲ってきた雑魚モンスターを瞬殺しながら、2人は順調に目的の村まで歩いていくのだった。


「お、あれかな?」

「おお~海だあっ!」


 地図を見て集落を位置をチェックするアレサと、目の前に広がる青い海に興奮するユウタス。2人の態度はまるっきり違っていた。

 すぐにでも海に突進しそうな相棒の腕を掴みながら、アレサ達は目的の村に到着する。

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