第43話 依頼内容は遺跡島探索

「君等にする仕事の依頼だが、迷宮を探索をしてもらいたい」

「迷宮探索? あんまり得意じゃないな。俺達で本当にいいのか?」


 話を聞いたアレサは、自分達向きの依頼ではないといぶかしむ。男はこの展開も想定済みだったのか、オーバーリアクション気味に両手を広げると話を続ける。


「まず、迷宮の地図は先発隊からの情報からほとんど完成している。無闇矢鱈に歩き回る必要はないんだ。ただ、その地図にもまだ未完成な部分があってね。私はその先にまだ未知の領域があると思っているんだ」

「つまり、その怪しげな部分の調査して欲しい、と?」

「そうだ、そんなに悪い話じゃないだろう? 怪しい部分はたった数箇所。美味しい仕事だと私は思うがね」


 男は挑戦的な笑みをソファに座った2人に向ける。アレサはその男の挑発に乗るように笑みを返した。


「探索中、そこでお宝が見つかったらどうするんですか? 私達のものにしていいと?」

「そこは君等の判断で構わない。正直に報告するも良し、ネコババするのも良しだ。ただし報告はちゃんとして欲しい。そのためのマジックアイテムがこれだ。依頼を受けるならこれを受け取ってくれ」


 男は引き出しを開けると、そこからゴルフボール大の小さな水晶玉を机の上に置く。どうやらそれが記録アイテムらしい。依頼の話をする男の目力は強く、こう言う場に慣れていないユウタスは完全に圧倒されていた。


「俺、こう言うのはちょっと……」

「何言ってんの? いい話じゃない」


 乗り気でない彼に対して、アレサは既にこの依頼を受ける気満々だった。高額報酬に目がお金の目になっている。

 場に微妙な空気の流れる中、顎に手を当てて深く考え込んでいたユウタスは、依頼人の顔をじっと見つめた。


「今までにどれだけの冒険者にこの話を?」

「流石は賢明なお方だ。ええ、確かに私は今までにも数組の冒険者に同じ依頼をしています」

「その結果は?」


 ユウタスの目が鋭く光る。その返答がこの依頼の危険度を示すと考えていたからだ。男は一旦呼吸を挟むと、微妙に口角を上げる。


「ですから、その成果がこのマッピングなんですよ。そこまで危険なものじゃないんです」

「危険じゃないなら、どうしてその冒険者に最後まで調べさせなかった?」

「それは……どうにも、秘密の抜け道を探し出せなかったからではないかと……」


 彼の追求に男の口調は変わり、最後は言葉を濁しているような話しぶりになった。またしても場の雰囲気は分かりやすく重くなる。

 男の態度から自分の疑念に確信を得たユウタスは、何かを決意したのか勢いよく立ち上がった。


「アレサ、やっぱり止めよう。この依頼はリスクが大きすぎる!」

「ちょま、私達ってそんなに弱い訳? ドラゴンを倒した事で依頼が来たんだよ。もっと自分の実力に自信を持とうよ!」

「ドラゴンより強いモンスターが出てきたら?」

「でも出来るでしょ、私達なら!」


 アレサは鼻息荒く自らの実力を鼓舞する。そのあまりにも自信満々な態度にユウタスはため息を吐き出した。

 結局、この話し合いは彼女に押し切られる形となってしまう。アレサは、この状況を見守っていた依頼主に向かって営業スマイルを振りまいた。


「と言う訳ですので、この依頼、喜んで引き受けさせて頂きます。その代わり、報酬もリスクに沿ったものを要求させてもらいますが……」

「ああ、分かった。こちらとしてもその条件を飲もう」

「交渉成立、有難うございます」

「な……っ」


 こうして、ユウタスの意見はまるっと無視される形で交渉は成立する。決まったものは仕方ないと言う事で、2人は早速冒険の準備を整える事となった。この手の依頼は普通成功失敗に関わらず、まずは前金が支払われるのが定番だ。


 けれど、まずは実績を見せなければならないとか色々言われて、事前には必要経費の分しか認められなかった。そのため、2人は過剰とも言えるほどの準備を整える。流石に資産家なだけあって、その経費は一発で支払われた。

 その金払いの良さに、アレサは依頼成功時の事を想像して顔がニヤける。


「これ、美味しい仕事だぞ……間違いない。うへへ……」

「いや、顔キモいって」

「え? そうかな? えへへ……」


 ユウタスは呆れながら、そんな彼女と供にギルドのある拠点を離れる。依頼された目的地はそこから遥か南、大陸から少し離れたところにある忘れ去られた小島。

 かつては名前もあったその島は、近年島全体が巨大な遺跡だと言う事が分かり、空前の探索ブームが湧き上がっていた。

 噂によると、古代文明絡みの未知のテクノロジーが眠っているとかいないとか。


 他にも誰も見た事のない芸術品などが眠っていると言う話もあったりして、島を訪れるものは後を絶たないらしい。依頼主はその遺跡に眠るお宝の事が知りたいようだ。

 遺跡にはまだ未到達な部分も多く、少しでも早く先んじてその秘密を暴き、秘密を独占したいと言う野望もあるようだった。


「彼奴等、大丈夫でしょうか?」


 依頼主の秘書が、その美貌とはかけ離れた口調で依頼主の男に声をかける。男はぐにゃりと口角を上げると、くるりと秘書に背中を向ける。


「なあに、成果がなくて結構、あれば御の字。後で依頼結果の報告を受けても、それはどうにでもなる。貧乏人は扱いやすい」

「ふふ、悪いお人だ」


 どうやらこの男、たとえ依頼が成功しても報酬については色々と難癖をつけて払うつもりは全くないようだ。この会話の後、社長室ではしばらくの間、邪悪な笑い声が響き渡ったと言う――。

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