第40話 崩れ落ちた支配人

 2人がお互いに相手の技を褒めあっている内に、ドラゴートのいた空間は消え始める。そうして、この空間に取り込まれていた2人は無事に元のコロシアムに戻ってきた。

 2人が戻ったと同時に邪悪な魔法陣も消失。彼らを強引に異界に送り込んだ支配人ハロムの顔は、みるみる内に青ざめていく。


「う、嘘だ……。ダークドラゴート様が負けるだなんて……」


 かなりのショックだったのだろう。支配人はそのままペタンと尻餅をついた。いきなり魔法陣に突き飛ばされた経緯から2人はこの支配人も少し警戒していたものの、あの時の彼はドラゴートから力を分け与えられていたらしい。

 普通の人間の力しかなくなっていたハロムは、2人によって呆気なく捕縛される。


「年貢の納め時だぜ、支配人」

「とほほ……」


 この事件の真相は、コロシアムの更なる人気向上を図った支配人がその野望を叶えるため、老ドラゴンと契約を結んだのが発端だった。ドラゴンは力を取り戻せば望みを叶えてやるとうそぶき、若い人間を要求。

 ハロムはドラゴンの求める質の人間を供給するために、ギルドに依頼を出して冒険者を捧げ続けていたのだった。


 こうして全ての事件の首謀者として支配人は逮捕され、2人は勝利のハイタッチを響かせる。


「やったぜ!」

「いえーい!」


 今回は依頼のクリアの他にもコロシアムの事件の解決及び不正も暴いたと言う事で、賞金はその分上乗せされた。ギルドから大量の金貨を渡された2人は、目の色を黄金色に輝かせる。

 大量の金貨の重みに興奮しっぱなしのアレサは、相棒に向かって改めて手を差し出した。ユウタスもその手を力強く握る。


「俺達、いいコンビになるかもな」

「ああ、これからもよろしく頼むよ」


 こうして2人は意気投合し、今後もコンビを組む事にしたのだった。


 ちなみに、10名の大所帯で冒険をしていたトルスのパーティの方はと言うと、未知のダンジョンの探索と言う仕事で、罠にかかりまくって死ぬ思いをしたらしい。

 しかも罠にかかったのは地上での冒険が初めてのトルスだけだったらしく、パーティのお荷物扱いをされて、かなり肩身が狭かったのだとか。


 仕事自体は何とか脱落者も出さずにクリア出来たものの、内容があまりにハードだったため、この一回こっきりで彼は大所帯パーティを離脱してしまったようだ。


「いやあんなの無理だって! パーティはやっぱり5人くらいがちょーどいいって!」

「かもなぁ」

「ユウタスも大変だったろ、何せ2人だもんな」

「いや? こっちはいい感じだったぜ?」 


 ギルドに併設されている食堂で2人はお互いの冒険の成果を語り合う。友達の悲惨な状況を他人事のように楽しんで聞き流しながら、ユウタスは自分達のパーティの武勇伝を得意げに口にする。

 身振り手振りを加えながらの大冒険の話を、トルスは羨ましそうに聞くばかりだった。


「くっそ、お前らいい冒険をしてやがるなぁ」

「トルスも今度はいい仲間を見つけなよ」

「ああ見つけてやるとも! それでお前達より充実した冒険を楽しんでやる!」


 トルスは興奮しながら料理を平らげて、そのまま速攻でギルドに向かって歩いていった。ユウタスの挑発に乗っかって、新しい仲間を見つけようとしているのだろう。

 友達のそんな姿を楽しそうに眺めながら、ユウタスは今回の依頼の成功を反芻はんすうするかようにゆっくりと飲み物を飲み干すのだった。

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