第39話 天空神の加護と老ドラゴンの最期

「……つまり、弱点が分かればいいんだろ?」

「ちょ、おい!」

「任せろ!」


 またしてもアレサは、ユウタスが止めるのも聞かずにまっすぐ向かってくるドラゴートに対して突っ込んでいく。

 きっとその一見無謀な行動にも何か意味があるのだろうと、ユウタスは冷や汗を流しながら彼女の一挙手一投足を脇目もふらずに見守った。


「必殺剣技! 聖水剣円環のことわり!」


 剣を構えたアレサは、接近する老ドラゴンの体の各部分を超高速で突き刺しまくる。その動きが早すぎたためにドラゴートは翻弄されてしまい、攻撃をしてくる彼女に対してまともな反撃を繰り出せない。

 ただし、流石にドラゴンの体は屈強で、この攻撃ですら蚊に刺された程度のダメージにしかなっていなかった。


「くすぐったいわボケがー!」


 あんまり刺されすぎたのもあって堪忍袋の緒が切れたドラゴートは、一瞬の隙を突いて更に突きを繰り出そうとする彼女を太い腕で叩き落とす。この攻撃をまともに受けたアレサはそのまま床に叩きつけられ大きくバウンドした。

 その惨状を目にしたユウタスは、すぐに彼女の側に駆け寄る。


「アレサーッ!」

「お、俺は大丈夫だ……」


 彼に呼びかけられ、アレサは肘をついてゆっくりと起き上がった。そうして、確信を得た表情で、さっきの攻撃で得られた感触から導き出した老ドラゴンの弱点を口にする。


「分かったぜ。あの角だよ。角が弱点だ」

「なるほど、あれを折ればいいんだな……」

「出来るか?」

「任せろ!」


 ユウタスは胸をどんと叩くと、懐からとあるアイテムを取り出して首にかける。そのアイテムとは、そう、天空闘技場魔物騒ぎの時の切り札となった天空人専用パワーアップアイテム『天空神の加護』。何かあった時のためにと、レプリカ品を買って保険として持ってきていたのだ。

 切り札を身に着けた彼は手を合わせ、すぐに加護と意識をシンクロさせる。


「いくぞおーっ!」


 そう叫んだ直後、ユウタスは姿を消した。当然物理的に消えたのではなく、加護によって強化された超スピードで目で捉える事が出来なくなったのだ。

 アレサもいきなり相棒が視界から消えて困惑したものの、それはこの動向を注意深く観察していた老ドラゴンもまた同じだった。


「ぬぬ! あやつめどこに消えおった!」


 ドラゴートはその巨体を頻繁に動かして彼の視界から消えたユウタスを視認しようとするものの、一向にその望みが叶わずに焦り始める。

 さっきまで余裕の態度でアリを潰す象だった巨大魔物が、今では侮っていた相手に翻弄されているのがおかしくてアレサはクスクスと笑う。


「あいつすげぇな。これならいける!」

「ぐぬぬ……見えぬならこの一帯を火炎地獄にしてくれる」

「こっちだぜ馬鹿め」

「ぬうっ!」


 老ドラゴンが追いかけるのをあきらめ、手当たりしだいに攻撃しようと方針を変えた所でユウタスは彼を挑発する。声が聞こえたために、聞こてきえた方向にドラゴートの意識の向いたその瞬間だった。

 その隙を捕らえたユウタスはしっかりと狙いを定め、老ドラゴンの頭に生えている2本の立派な角を必殺の拳技で貫いた。


「神技! 風王の牙!」

「ぐああああ!」


 見えない不意打ちによってドラゴートの角は粉々に粉砕され、彼は正気を失ってその場でのたうち回る。その姿に、さっきまでの余裕たっぷりの風格はどこにも見られない。ただの痛みに苦しむ一体の巨大な獣の姿がそこにあった。

 とは言え、弱点を完全に破壊したところでまだドラゴンは倒せてはいない。いつ反撃に出てくるかも分からない状況だ。

 ユウタスも追撃を試みようとはするものの、次の一撃をどこに打ち込めばいいか判断がつかず様子をうかがっている。


 そんな一種の膠着状態の中、完全復活したアレサの目が光った。暴れまわるドラゴートに向かって剣を構え、そのまま突進する。そうして間合いからかなり離れた所で思いっきり剣を振り下ろした。

 この時、聖水剣は聖なるエネルギーを膨張させて、実際の刃の長さの何倍もの光エネルギーを放出していた。


「聖水剣、本気斬りーっ!」

「ぎゃあああ!」


 角の破壊により聖なる力への抵抗力を失っていたドラゴートは、振り下ろしたアレサの一撃でサクッと真っ二つに裂ける。二分割されたドラゴンは断末魔の叫び声を上げながら消滅。ついにこの強敵を倒したのだった! 

 アレサの攻撃を上空から眺めていたユウタスは、その見事な手際の良さに感心する。


「見事だな。流石だよ」

「へへ、ユウタスが角を破壊してくれたからだぜ」

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