第36話 意外な黒幕

「グルオオオオオ!」

「ぐあああーっ!」

「きゃああーっ!」


 弾き飛ばされた2人は空中で体勢を整え、何とか受け身をとってダメージを最小限に収める。魔物からの追撃に対応するため、2人共すぐに起き上がった。

 2人の攻撃を弾いた魔物もまた、考えなしに突進すれば自身の身が危ういと察したのか、その場から一歩も動かない。


「参ったね、あいつ強いよ」

「だな。どうするアレサ」

「きっとあれは最後の気力攻撃だよ。落ち着いて対処すれば問題ない。もう一度同時攻撃だ」

「分かった!」


 こうして2人は今度こそ魔物を倒そうと、お互いの呼吸を合わせる。まだ出会って半日程度の即席コンビは、それでもお互いに波長が合ったのか、達人同士の阿吽の呼吸的なアレなのか、すぐにピッタリと息を合わせた。

 この状況を危険と感じたのか、先に魔物の方が動く。まさに魔の化身と言うほどの邪悪な形相で、目の前の厄介な障害を排除しようと襲いかかってきたのだ。


「グルオオオオオーッ!」


 対する2人が幸運だったのは、この魔物が直接攻撃しかしないタイプだったと言う事だろう。魔物の動きをしっかり想定していた2人は、この突然の先制攻撃にも全く動じてはいなかった。


「来た!」

「ユウタス、行くよ!」

「おう!」


 2人は魔物の攻撃を余裕を持ってかわすと、ほぼ同時にお互いの得意技を繰り出す。


「神撃! 流星多段撃!」

「剣技! 戦神の咆哮!」


 ユウタスは思いっきり飛び上がってその拳技で上半身の弱点を、アレサはそのまま前に踏み込んでその剣技で下半身の弱点を貫いた。

 この同時攻撃を受けた巨大魔物は、あまりの痛みに鼓膜が裂けるレベルの絶叫をする。


「グギャアオウウウウ!」


 大ダメージを受けた巨大魔物はこの次元での体の維持が困難になり、絶叫と供に徐々にその存在を消失させていった。

 こうして、2人はこの難敵との戦いにも見事に勝利する。


 巨大魔物が魔物が完全に消えたところで、2人はお互いに顔を見合わしてサムズアップ。室内はまた静寂に包まれた。

 戦闘も終わって緊張が解け、剣を鞘に収めたアレサの元にユウタスが歩み寄る。


「今の内に魔法陣を消そう」

「ああ、そうだな……」


 2人はお互いにうなずき合うと、騒ぎの元凶である魔法陣に近付いた。よく見てみると、この魔方陣は床に直接書かれたものではなく、魔法的なエネルギーで存在を実体化させているのが分かった。


 この手の魔法陣を消すにはその構成要素を調べ、相反する属性のものを与えて対消滅させるのが一般的だ。魔法陣の正体が分かったところで、今度はこれを消すために2人は役割分担をする。

 まずはアレサが構成要素を調べ、ユウタスが相反属性の処置に回った。


 早速アレサが持ってきた手荷物の中から判定機材を取り出して鑑定をしていると、突然空中に出現した闇空間の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「それを消すだなんてとんでもない……」

「だ、誰だ?」

「おや、私をお忘れですかな?」


 2人が警戒する中、闇空間の中から現れたのはこのコロシアムの支配人、ハロムだった。何故ここで支配人が出てきたのか、話の読めない2人の頭上にはてなマークが踊る。

 ハロムはクックックと含み笑いをしながら、2人の冒険者をいやらしそうな表情で見つめた。


「私も誤算でした。まさかCランクの依頼にここまでの上級者がやってくるとはね……」

「まさか、あなたがこの事件の……」


 アレサが事の真相に気付いて動揺したその瞬間、その隙を見計らったハロムは一瞬で2人の背後に近付き、そのまま両手を突き出してそれぞれの背中を強く押し出した。

 この意外な動きに全く対処出来なかった2人は、勢いよく魔法陣の中に入り込んでしまう。直後、アレサは腰の剣に手をかけながらすばやく振り返った。


「ハロムさん、一体何を……!」

「クク……すぐに分かりますよ、すぐにね……」


 ハロムは右手を腰に当てると意味深な言葉をつぶやく。直後に魔法陣は発動し、発生した闇の力に2人は為す術もなく取り込まれていった。

 完全に闇に取り込まれ、冒険者達が消えたのを確認した支配人は、両手を広げて高らかに笑う。


「ダークドラゴード様、生きの良い餌ですぞ……どうかお収めください!」


 一方、闇の魔法陣に取り込まれた2人は不思議なエネルギーの渦巻く謎の空間に飛ばされていた。先に意識を取り戻したアレサはその異様な雰囲気に嫌な予感を感じ、すぐに相棒の背中を揺らす。


「おい、起きろ! ヤバいぞ!」

「うーん、後5分……」

「寝ぼけてる場合か! 起きろって!」

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