第31話 凄腕の剣士の少女

「おお~。ここが地上。匂いが違う、風の流れが違う。俺、雲を見上げてるよ! ええ~っ。変な感じ」


 初めての地上に感動したユウタスは、大地を踏みしめるとすぐに両手を広げ、その場でくるくると回り始める。その奇行とも取れる行動に、一緒に降りてきたランカー達は他人の振りをしながら、すぐにそれぞれの目的地へとバラけていった。


「ユウタス、お前は好きに楽しんでな。俺は先に行ってるぜ」


 トルスにすら呆れられ、ユウタスは転送されてすぐに一人ぼっちになってしまう。最初はハイテンションで地上の雰囲気を楽しんでいた彼も、いきなり淋しくなった事で正気を取り戻して周りを見渡した。


「あれ? みんな? 嘘だろ……?」


 他の同行メンバー全員に見捨てられてしまった事に気付いたユウタスは、すぐに焦って走り出した。


 今回の地上遠征はメンバーによって大体の行き先が決まっている。地上に転送された後は冒険者ギルドに向かう事になっているのだけれど、その向かうギルド先がそれぞれ違うのだ。ユウタスと同じギルドに向かうのは腐れ縁のトルスのみ。

 と、言う訳で、彼はとっくに見えなくなってしまっていたライバルの背中を急いで追いかけた。


 ユウタス達が転送された場所は、地上の転送センターの中でも比較的危険度の少ない7番転送地と呼ばれる場所で、その周りは見晴らしのいい草原となっている。

 転送前に係の人から渡された地図を頼りに走っていると、その途中で複数の魔物と戦っている少女を発見した。

 多勢に無勢と言う事で彼はすぐに方向転換。この少女を助けようと魔物の群れに突っ込んでいった。


「助太刀するよ」

「はぁ? そこで黙って見とけ」


 さっそうとヒーローのように登場しようとしたら、逆に強い言葉の圧で拒否されてしまい、ユウタスは困惑する。彼が助けようとした少女は敢えてこの不利な条件で戦おうとしていたのだ。きっと複数戦の経験を積むためなのだろう。

 武術の心得のあるユウタスもすぐにその意図に気付き、その戦いを見守る事にする。それは、返事の気迫から只者ではない気配を感じ取ったからでもあった。


「さあ来いよモンスター共! 楽しく遊ぼうぜぇ!」


 この挑発に、モンスター達は一気に少女に襲いかかる。その数、実に11体。彼女はまるで洗練された演舞のような美しい動きで、魔物達を華麗に撃ち倒していった。全く無駄のない動きは疲労を極限まで軽減し、最後まで一定のリズムで動き続ける。

 激しく体力を消耗しているはずなのに、その体捌きは全く疲れる素振りが見られなかった。


 この初めて見る戦闘スタイルに感動したユウタスは、夢中になってそれを眺め続ける。彼がまばたきをするのを忘れている内に、11体のモンスターはたった1人の少女によって全て倒されてしまった。

 彼女はそれでも物足りなかったのか、少し不満そうな表情を浮かべ、剣を鞘に戻す。


「ふう。ま、こんなもんか……」

「君、すごいね」

「当然、鍛えてるからな」


 ユウタスの言葉を少女は少し挑発的な表情を浮かべながら、当然のように受け取った。そうして、右手を腰に当てながら、突然話しかけてきたこの天空人を上から下まで品定めをするように眺め始める。


「ふうん、天空人かぁ。初めて見た」

「俺はユウタス。地上へは傭兵の仕事でやってきたんだ」

「俺はアレサ。傭兵って事はそれなりに腕に覚えはあるんだな」

「ああ。俺だって鍛えてるぞ」


 ユウタスは袖をまくりあげて自慢の腕の筋肉を見せつける。新人ランキング5位と言う実績が、彼のメンタルを強化していた。この筋肉を、アレサは興味深そうにじっくりと観察する。


「へぇ、やるじゃん」

「よせやい、照れるぜ」


 今まであんまり異性に真剣に筋肉を見られた事のなかったユウタスは、この出会ったばかりの少女の視線に耐えられなくなり、不意に顔を背ける。

 その照れる仕草がツボに入ったのか、アレサはクスクスと笑った。


「お前、面白いな」

「え? そ、そうかな?」


 今まで異性に面白いなんて言われた事のなかったユウタスは、この新鮮な反応にどう答えていいのか困惑する。同じ体育会系キャラと言う事でユウタスに親近感を持った彼女は、更にその好奇心を追求した。


「ユウタスは地上にはよく来るのか?」

「いや、実は今日が初めてなんだ」

「ほほう……」


 アレサは顎に手を当てて、彼の返事を興味深そうにうなずきながら聞いている。質問は更に続いた。


「傭兵って言ってたけど、どこに向かってたんだ?」

「この近くのギルドだよ。拳闘士を募集しているらしいんでね」

「へぇ、じゃあ行き先は同じだ。一緒に行こうぜ」

「マジで? 良かった、迷わずに済みそうだ」

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