賞金稼ぎ達の合流

スカウト

第30話 地上転送

 天空に浮かぶ武闘家の島、アルモルトスでは拳闘士のユウタスが日課のトレーニングを続けている。あの大人大会の1件以降、彼は多くのギャラリーの注目を浴びる事となっていた。ユウタス目当ての観客も増える一方で、一種のアイドル的人気を誇るようにすらなっている。

 そんな感じで周りが盛り上がる中、彼はストイックに自分の強さのみに目を向けて鍛錬を続け、頼りなげだった実力もメキメキと上げていっていた。


 月に1回の地方大会には必ず顔を出し、2回戦、3回戦をコンスタンスに突破している。優勝経験はまだないものの準優勝をした事もあり、初優勝も時間の問題だとして、人気だけでなく実力も若手で一番の注目株扱いだ。


 現在、ユウタスの同世代実力ランキングは5位。大人大会に挑戦半年以内でここまで上り詰めるのは異例の事だった。で、彼のライバルを自認するトルスはと言うと、ランキングは惜しくも6位と言う位置についていた。やはりバランと当たったあの大会での敗退が尾を引いていたらしい。

 そう言う流れもあって、2人が出会うといつにも増して激しくいがみ合いをしてしまうのだった。


「何でお前が5位で俺が6位なんだよ!」

「それが公式のランキングなんだから仕方ないだろ」

「お前も一回戦で強敵に当たれ! そして負けろ!」

「運が俺に味方してんだよっ!」


 どれだけ言い争いをしてもランキングの数字を動かせる訳もなく、結局は手が出る事になる。取っ組み合いの喧嘩は簡単には決着がつかず、いつだって泥沼の戦いは2人の体力が消耗し切るまで続いてしまう。

 そうなる前に止めるのは、2人の幼馴染のカナの役割だった。


「止めないさいよ! 何でタダで戦っちゃうかなぁ」

「こ、こんなのただの遊びだよ。な、トルス」

「あ、ああ……。ユウタスの言う通り……」

「ふぅ~ん」


 彼女は2人の下手すぎる言い訳をジト目で聞き入れる。わざとらしく前かがみになって両手を腰に当てるその仕草は、2人の戦意を喪失させるのに十分な威力があった。

 喧嘩を止めた2人が立ち上がり、服についた汚れを手で払っていると、カナはユウタスの顔をじっと見る。


「あ、そうだ。ユウタスに話があったんだ。大会の運営の人から伝言を頼まれたんだけど、地上で腕のいい拳闘士を募集してるんだって」

「て事は、俺、派遣部隊の資格を得たの?」

「みたいね~。ランキング10位までの人が対象みたいだよ」

「やった! 地上、行ってみたかったんだよなぁ~」


 ユウタスは地上に行く権利が得られた事実に興奮している。天空の島の武闘家達は大会の賞金だけで生活している訳ではない。むしろ大会で勝利するのは名を上げるためであり、ランキングで上位の成績を収めるのはいい条件で傭兵の仕事にありつくためなのだ。

 と、言う訳で、幼い頃から地上に憧れていたユウタスは、この話にすぐに飛びついた。隣で聞いていたトルスもまた、同じくらい目を輝かせる。


「ランキング10位までなら、つまり俺も含まれるよな」

「うん、そうだね」

「よっしゃあああ! ユウタス、俺は先に手続きに向かうぜ!」


 ユウタス以上に地上に憧れのあったトルスは、速攻で諸々の手続きの代行をしている大会運営の事務所に向かって駆け出していく。その行動の素早さにユウタスは呆れるばかりだった。


「あいつ、行動力ありすぎだろ……」

「ユウタスも行くんでしょ? 気をつけてね」

「ああ、うん。伝言ありがと……」

「ふふ、どういたしまして」


 彼から感謝の言葉をかけられたカナは、頬を淡く染めながら帰っていく。その足取りは軽く、スキップをしているみたいだった。

 ユウタスはすぐにトルスを追いかけようと思ったものの、まずは報告をしなくてはと思い直し、自分の家へと戻る。


 帰宅した彼はすぐに傭兵でも大先輩である父親のもとに向かった。彼の父は何度も地上で傭兵としての実績を積み、その報酬で今の生活を維持していると言っても過言ではない。今でもたまにお呼びがかかる事があり、ユウタスはこの父からの武勇伝を聞くのが何よりの楽しみだった。彼の地上への憧れは父の話の影響も大きい。

 その父親は道場で技の型の鍛錬をしていた。彼の姿を目にしたユウタスはすぐにその側まで行き、深く頭を下げる。


「そうか、決まったのか」

「はい!」

「うむ、頑張ってこい!」


 こうして父への報告を終え、ユウタスは速攻で地上に降りる準備を整える。必要な物を荷物袋に詰め込んで、意気揚々と大会の運営本部へと向かった。

 本部で手続きを済ますと、地上行きのゲートへと案内される。天空の島々と地上の大陸へはこのゲートで移動するのだ。ゲートの稼働は大量のエネルギーが必要なため一日に数回しか利用出来ない。

 なので、今回の地上行きのグループは、全員集まってから転送と言う流れになっていた。


 ユウタスがゲートにやってくると、当然ながらそこには急いでこの本部に向かったトルスが暇そうに時間を潰していた。


「ユウタス、おっせーよ!」

「や、でも、俺が最後じゃないだろ?」

「あぁ?」


 このまま口喧嘩をしている内に殴り合いが始まりそうになる中、今回の地上降下組、同世代ランカーの10人が揃う。こうしてゲートが稼働する運びとなり、ユウタス達は無事地上に転送された。

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