第29話 トラップトラブルメイカーの失敗
「おお……これはすごい。初めて見る遺物だ。大発見だぞこれは……」
「うふふ。このお宝石は全部私のもの。ああっ、この美しさ……一体どれほどの価値があるかしら……」
先に入っていたシイラはそのお宝を前にして、目を輝かせながら特にオーパーツを中心に物色している。もう1人のリルは学術的貴重品には目もくれず、ただひたすら高額で売れそうな宝石類を持参してきた丈夫そうな袋に詰め込みまくっていた。
2人が有り余るお宝の山に正気を失っている姿を目にして、アコは元気よく声をかける。
「2人共~! 私の分も残しといてよっ!」
ニコニコ笑顔で彼女がその輪の中に入ろうと近付いたところ、お宝に注目していたはずの2人は同時に振り向いた。
「「アコは何も触っちゃダメ!」」
そう、彼女達はアコの罠に発動しやすい体質を警戒したのだ。あんまり強く言われたので彼女も地味にショックを受ける。
「そ、そんな……。この部屋にまで罠がある訳……」
アコは苦笑いをしながら思わず後ずさる。この時、床に設置されていた極小の魔法陣を彼女は踏んでしまった。すると、その魔法陣は宝物庫の床全体に広がり、淡く青い光を放ち始める。
この時、すぐにこの異常に気付いたシイラが高速で顔を左右に振った。
「え、ちょ? これ何?」
「アコ、また何かやったの?」
「ふえ~ん、知らないよお~!」
後ずさったタイミングでの発動なので、アコは罠を発動させた自覚がない。混乱する2人に対して、リルはこのトラップについて何か知っている風な素振りを見せる。
「この魔方陣トラップ、もしかして」
「リル、知ってるの?」
「これは、私の記憶が正しければ……」
彼女がトラップについての知識を披露し終わる前に、それは完全発動してしまった。次の瞬間、3人は遺跡の外に強制的に移動させられる。
「……つまり、こう言う罠なのです」
「なるほど。……あれ? さっきまで私達が手にしていたお宝は?」
「このトラップは部外者だけを強制的に外に追い出すものなので……残念ながら……」
「嘘でしょおおおお~!」
肝心のお宝を手に入れる事が出来ず、シイラは絶望のあまり狂気じみた大声を発した。ハッピーエンドまで後一歩のところでその夢を壊した張本人はオロオロするばかりで、しばらくは2人に声をかける事すら出来なかった。
「えっと……なんかごめん……」
「まぁいいわ。障害もなくなったんだしもう一度入ればいいでしょ。お宝までの道順はもう覚えたし」
シイラは怒りを抑え、意気揚々と遺跡に入ろうと進み出す。ワンテンポ遅れてリルとアコも彼女の後を追った。そんな3人を待っていたのは衝撃的な光景。
「嘘……。何であんなにガーディアンがいるの?」
「多分、宝物庫が暴かれたから……あのトラップの発動で遺跡のシステムが完全に起動したんだと思います」
「マジで?」
今からもう一度入ろうとしたところで、遺跡の入口から見えたのは遺跡内を厳重に警備する無数のガーディアンの姿。その数、見えるだけで6体。きっと中には更に多くのガーディアンが遺跡内を守っているのだろう。
ガーディアン1体ですら3人がかかりで全く刃が立たなかった事を思い出した一行は、ここで再挑戦を完全に断念した。
「シイラ……。ざ、残念だったね」
「アコ! もうあんたとは冒険しない!」
「そ、そんな……」
後一歩でお宝を手に入れられなかった悔しさもあって、シイラの怒りは頂点に達してしまう。その圧にビビったアコは思わずもう1人の仲間の顔を見た。
「私も……アコとは一緒には冒険は出来ないかも……少なくともトラップのある遺跡とかは……」
「ええっ? だってあのガーディアンを倒せたのは……」
「それはそれ、これはこれ! 結局最後は失敗したじゃない!」
「うう……っ」
アコはどうにか自分の実績をPRしようとするものの、一番最後の失敗が痛すぎて説得は失敗。仲間2人から押されたメンバー失格の烙印は、どうやっても取り消す事が出来なかった。
「今度は別のパーティーでリベンジするから! アコはまた新しく仲間を集めるのね!」
「ええっ……とほほ」
こうしてソロになったアコはトボトボと次の仕事を探すためにギルドに向かう。攻略は失敗、仲間も失い、報酬はゼロ。それでも彼女はまた次もどこかの遺跡へと向かうのだろう。
だって、それがトレジャーハンターの性なのだから。
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